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2004.03.17

不死と幹細胞を売る人びと

cover
「不死を売る人びと 「夢の医療」とアメリカの挑戦」

 スティーヴン・S.ホール著
 松浦俊輔訳 阪急コミュニケーションズ 2004/01
 [ Amazon ] [bk1]
 
原書とその書評:2003, Merchants of Immortality

 この本もタイトルで損している。
 中身は不老不死の研究紹介や不死を売る人びとの話じゃない。

 中身は、幹細胞なバイオの本。
 再生医療の延長として不死の話が少し。
 メインはテロメア幹細胞米国のクローン政策

右画 ・ヘイフリック氏のヘイフリック限界までの経緯
 ・テロメア、そしてドラスティックなテロメラーゼ遺伝子競争
 ・幹細胞
 ・ヒトクローンとES細胞、そして米国で研究に使える株数の問題

 筆者は科学ジャーナリスト。
 語りはうまく、ドラマティック。
 全体は技術・科学史ドラマといった感じで、開発研究の展開、段取り、そして先陣争いの記録が次から次と。

 特に、2003年までのアメリカにおける幹細胞研究の動向と政策の、斬った張った丁々発止がリアルにまとめられていて大変重宝。
 2001年の世界貿易センターテロ前後あたりとか、幹細胞をめぐる政府方針でえらい大騒ぎだったもんなぁ。
 当時何がなにやらだったけど、この本でまとめられていてすっきり。
 よくわからなかったレオン・カス(キャス)の位置づけもすぱっと記してあるし。

 ただ、不死の欲望とその適応性など倫理観点についての考察にはそんなにページは割いていない。
 ゆえ、人生観を豊かにする種類の情報を求める人にはたいくつな本かもしれない。
 ビジネス渦中の人や、競争好き・争い話好きな人にはビンビンくる類の内容かと。

 原書刊行から一年もたっていないほやほやの邦訳&旬な内容なので、ホットなうちに読んでおくべし。

********

 P.389に登場する『スリーパー』計画
 「嗅球から分離した一個の神経細胞からクローンマウスを作る」というやつだけど、これついこないだやっと成功の報道があった。
 成功までずいぶんと年月がかかっている。
 どのくらい失敗と犠牲を重ねた上での成功なのか。

嗅覚神経細胞から作られたクローンマウス
2004/02  Howard Hughes Medical Institute  Mice Cloned from Olfactory Cells

********

 ついでに。
  最近の幹細胞報道では、韓国の研究者がヒトクローン胚を作成し、それを殺してES細胞を採取することに成功した件が世界的に波紋を広げていた。

ドクター・クローンと呼ばれる男 彼とその倫理を擁護する韓国民
2004/03  Washington Post Dr. Clone: Creating Life or Trying to Save It?
 S. Korean Defends Ethics of His Controversial Research

 幹細胞研究は、しょせんまだ「研究中」
 確立はまだなわけで、未知数な点も多々ある。

伝子治療方面では
 ・入れた遺伝子がどこでどう作用するかわからない
  思い通りの働きをしてくれるとは限らない
で、白血病の副作用とか起きたりして問題になっているけれど、
幹細胞でも
 ・思い通りの働きをしてくれるとは限らない
 ・幹細胞が変化して組織になったんじゃなく、
  既存組織の細胞と幹細胞が融合しているぞ
みたいな報告があるようで、可能性はあくまで可能性、確約ではない状態。

●右画
幹細胞による心臓治療、要注意
 効果も見られたが、合併症も出る恐れ@韓国
2004/03  BBC News Stem cell heart repair 'doubts'
 A stem cell treatment for heart attack patients has shown some promise but a high complication rate
2004/03  Nature Science Update Heart therapy raises hopes and concerns
 Experimental treatment with blood stem cells causes complications.
 
成体幹細胞、言われるほど万能じゃないかも
2003/10  Betterhumans Fusion Finding Reduces Appeal of Adult Stem Cells
2003/10  EurekAlert UCSF-led study raises doubts about marrow cell treatment for brain, heart
2003/10  Howard Hughes Medical Institute  Doubt Cast on Adult Stem-Cell Plasticity Studies
2003/10  Washington Post Bone Marrow Research Is Questioned
 
骨髄性幹細胞、傷ついた肝組織の細胞と融合して治癒へ
 元細胞と入れ替わっているのではなさそう
2003/03  Nature Science Update  Excess DNA prompts stem-cell rethink
2003/04 【日本語記事】 多すぎるDNA 本当に「移植幹細胞が新しい組織になる」のか? ネイチャーバイオニュース
2003/04 【日本語記事】 幹細胞治療の研究アプローチをくつがえす新発見 ワイアードジャパン
 この修復プロセスには幹細胞が必要でない可能性も

BG箱

 ネットささぱんださんとこ、
  ES細胞を使った再生医療が
  スタンダードになるのはもうすぐでしょうね

と無邪気なことを記していたのでびっくり。
 成人幹細胞とES細胞の違いをわかった上でお書きになったのでしょうか…?
 わかった上で記しているのなら、そこにいたるハードルの状況や倫理問題についてわずかもニュアンス感じさせないバラ色な記し方に何か利権がらみの意図操作的なものが…?…いや、全然わからずに記しているのだと思ってあげたいけど。

BG箱

追記:
カール・ジンマーが彼のブログでブッシュの倫理政策の悲惨な現況やレオン・キャスについてひとしきり書いている。

脳研究とその倫理 ポンコツなブッシュの科学・医療政策
2004/03  The Loom: Bioethics of--and in--the Brain


へぇボタン:へぇ〜 と押してみるもよし

情報庫: 幹細胞・ES細胞・再生医療   生命倫理   クローン


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コメント

こんにちは.
Orbiumのとしです.
# すみません,コメント無駄打ちしてしまいました.

TrackBackありがとうございました.
さて,取り上げていただいたエントリに関してですが,
指摘をうけ,非常に恥ずかしいコメントだったと反省しております.

ES細胞と成体幹細胞の区別はついているつもりです.
現実的にヒトES細胞を用いる場合の倫理問題があること,
また,成体幹細胞を用いる場合にでも,
経静脈投与や骨髄移植法による移植など,
技術的にまだまだ研究中であることも認識していたのですが
書いているときに全く意識せず,
あのようなコメントになってしまいました.

利権問題などでわざとバラ色の表現にしたわけでもなく,
意図的なことは全くありません.
ただぼんやりとしていただけです(泣).
公開する文章であるにもかかわらず,
全く持って浅はかでした.

本当にご指摘いただき,ありがとうございました.
いつも楽しみに読ませていただいております.
私も少しでも適切なコメントができるように
勉強して参りますが,また至らない点がありましたら
ご指摘いただければ幸いです.

これからもよろしくお願いいたします.

投稿: とし | 2004.03.17 16:00

としさんコメントありがとうございます。
「うっかり表現」だったとのこと、大変安心いたしました。
私は私で、技術的な細かいことにはうとい上、
けっこう記事斜め読みしてたりしますので、
どっかこっかとんちんかんなこと書いていたりするかもしれません。
そのときには適宜ツッコミ&ご教示いただければ助かります。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: 雨崎良未 | 2004.03.17 18:15

読みました。とてもおもしろかった。
変ですよね、この本の題名。ここで紹介されなかったらこの本に幹細胞の話が載っていることに気づかなかったかもしれません。

投稿: トリビア | 2004.03.24 07:47

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