もっとよくなる頭の使い方
ぐんぐんよくなる頭の使い方 の続きです。以下、前の話を踏まえた上で。
その後、著者の篠原氏との話(メール交換)で察するに、どうやらこの本は残念な経緯を経て仕上がった一冊であり、妥協のほころびが私がひっかかった2点(ひきこもり/ブリーフセラピー)などに出ていたらしい。
以下、私が理解したところの顛末。
●法研(出版社)側が脳力アップの本を書かないかと企画を持ってきた。
●篠原氏は当初、脳科学のみならず精神保健も視野に入れ 外在化による問題解決の話に大幅に紙幅をさいて原稿をこしらえた。
●が、法研側は、科学(絶対権威)の威光をまとった「いわゆる流行りの脳力アップノウハウ本」が欲しかっただけであり、その企画上、外在化やカウンセリングのような(相対的な)話は商品としては色が違いすぎるゆえ篠原氏の初稿に渋いリアクション。
●篠原氏はなんとか法研の意向に添おうと前向きに検討し、大幅改稿。
●でも迎合しきれない点があり、結果、中途半端に外在化の話が混じり残ってしまった。
以上、不正確かもしれないけれど、少なくとも篠原氏は書きたいようには書けなかった、遠慮した顛末があった、そこは確からしい。
仕上がった当該書の中で、篠原氏はひきこもりの因を サーカディアンリズムに単純還元するような記し方をしていた、そこに私はひっかかりを感じた。
脳研究の篠原氏が、素人じゃあるまいし、ひきこもりを十把一絡げに体内時計の不調が原因なのだなぞと思っているはずはないわけで、だのに明らかに不用意とも思える単純還元断定みたいな書き方をしていたわけで。
篠原氏はふだん引きこもりの解決に「サーカディアンリズム(睡眠時間)を治す」手法を使っていて、それはそれでけっこううまく行っているらしい。実際の原因はどうあれ、形式上原因をサーカディアンリズムに帰するだけで治療は成立しうる。
で、もしかして アレ は不発になった<呪>ではないかと書き送ると、先方の返答は「正解」。
私が送った私信内容↓。
私の手持ちのカードはけっこう脳研究とは種類が違うのが混じってるので、一晩寝て起きたら「それって<呪>っぽいんじゃない?」という札がのこのこ出てきました。
お祓い。
わざと呪(しゅ)をかけて、それを祓(はら)う。
<呪>はいまどきは小説家・京極夏彦の専売特許めいて沙汰されてますけど、真の原因が何がどうあれ、
それは狸のせいだ
それは先代のたたりだ
それはオサキ持ちのねたみだ
などと原因を還元してしまい、それの解消法を提示&実行して問題をまとめて祓ってしまう。
はっきりつかめる原因が提示されるだけで人心は安定する、加えて「その原因が解消されました」という儀式だけでもろもろの問題が変換され快癒したりする。医療人類学〜民俗療法とかでは良くある話のようで。
脳も今どきは<呪>として機能することがあります。
On 2003.07.13, Amasaki wrote
> 自分の苦しみは悪霊や悪縁の憑き物のせいであって
> それを落とせば救われる人がいる、その一方で、
> 自分の心理ではなく、脳という憑き物のオイタと考えると
> 救われる人もいる、まぁ、そんな多様な時代なんですね、今は。
ご著書でひきこもりをサーカディアンリズムの問題に還元してしまうような表現をしていたのは、そういう<呪>、人間関係ではなく生態の不調に帰するような<呪>をかけていたのか、と考えるといまさら得心がいくような気がします。
複雑微妙曖昧な原因でこじれているものであっても、何か単純な原因にかこつけて治す作業を行うときれいさっぱりほどけてしまうことがある。私は心理学用語にはあまり詳しくないのだが、そのような 特定の何か にかこつけ還元することを 「外在化」というらしい。
で、本の中、外在化の文脈で記していたひきこもり対策の話が、初稿段階で編集側に拒否されてしまい削ってはみたものの、 中途半端な形で残ってしまったと。(ブリーフセラピーの一件も外在化路線の一環として記してあったようで)
<呪>も「外在化」も実際問題効く(ことが多い)。
効きはするけれど、それは「科学(唯一絶対権威モード)」とは異なる千変万化な「心」のフィールドの話になるのであり、手法はいきおい相対的・多様多相なものとなる。
なにをもって外在化させるか。それは脳であったり、祟りであったり、人間関係であったり、社会環境のせいであったり、人によって外在化(呪)の手法は十人十色、さらにはケースバイケースの百人百様になってしまう。
篠原氏は初稿で、陰陽道やら、言霊パワーやら、はては「脳科学どころか科学自体外在化なんじゃ」とまで記しちゃっていたらしい。そりゃボツにされるわな
機会がまずかった。
法研の既刊ラインアップを見てもちょい無理目な路線。「科学」(唯一絶対)より「心理」(多様多層)、書き手の個性を尊重してくれる企画にめぐりあう必要がある。
「ヒゲオヤジ篠原」なるキャラを立てるという、かなり気のきいたことをしてくれたなじみの オフィスエムで、もう一冊出させてくれるとおいしいと思うけれど、なじみでなくとも、脳学者が唱える<呪>というコンセプトの面白さと篠原氏の個性を理解してくれる編集者さん、いらっしゃったらぜひコンタクトをどうぞ。
※篠原菊紀インタビュー 「脳内物質と心の変化」 2001/09@こだわりアカデミー
彼が述べようと思っていたことは、いまどきの脳力アップ本などよりさらに息の長い流行りに乗りうるものであり(妖怪ブームや民俗療法までをも巻き込める)、改めて一冊著せる機会が近いうちに彼にめぐってくることを望む、そんな感じなのでした。 リベンジマッチに ヨイショ!
参照: 不特定多数との情報の共有という体裁が<呪>を形成する
情報庫: 呪・民俗学 脳神経 心理学 精神保健 医療人類学 文化結合症候群
上のような些少の弱点を差し引けば、ヒゲオヤジ篠原先生の「ぐんぐんよくなる頭の使い方」はそれなりにハンディで使いやすい脳力アップ本です。
機会があればチェックしてみてね。↓
「ぐんぐんよくなる頭の使い方 脳を元気に動かす88のコツ」 篠原菊紀著 法研 2004/03
2004/04/20 追記。
いや、渋ってもダメです。
私が世間に向かって「ヒゲオヤジさんはもう一冊書きたがっている」という<呪>をかけました。
興味本位であおるのは私。巻き込まれるのはあなた。(^_^)
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