あなたの病気に意味がある?
「あなたの病気には意味がある
あんな病気にこんな効用」
高田明和著
カッパ・ブックス
光文社 2004/02
[ Amazon ] [bk1]
ひさびさにひどい本を読んだ。
裏カバー折り返しの著者紹介に「テレビ、ラジオ、講演での解説はわかりやすいと定評がある」と記されているが、
わかりやすさと内容の正しさは比例しない
ことはよくあること。これまでにも自称「講演では好評を博しています」なトンデモ専門家さんに何度か行き当たっているし。
で、この著者、専門は生理学だとのこと。たぶん生理学的には正しいことをいろいろ挙げていらっしゃるんでしょう。
でも自分のテリトリー外の異分野に関わることがら、遺伝学、進化学、社会学、文化生態学、精神保健等の方面で、平気でヤバイことを書いているのがすごいのであって。
何も気にせずしらっと「平和愛好人種」「高い道徳性」「**遺伝子」「自分の遺伝子だと確認する本能」「知性や感性の低い人」などの表現をお使いになる神経。
この本がいじっている分野は簡単に言えば 「進化医学」。
書き手によっては進化医学ってこんなあられもない姿になってしまうんだなぁと嘆息しばし。
企画的には「進化医学」の知見をツマミながら病気の進化的由来を云々して有意義な意味を見出そう、というコンセプトらしいが、これがまた帯の「意識が一変する本」とまでは全然行ってなくて、敢えていうならトリビア止まり、「知らなくていいよけいな知識」以上になってない。
理屈と膏薬はどこにでもつくもの。どうせつけるならもっと上手な理屈をつけておいてくれ。
p.26 近視女の性淘汰
女は男の瞳孔には無関心なのか?
瞳孔は「興味がある対象に対して開く」。自分に関心を持つ個体を選ぶ、そう解釈するならまだしも「近視の女は服従のサインを出しているからモテる」というのは浅すぎ&偏見入り。
p.55 金持ちが増えるとアレルギー遺伝子が広がる、アレルギー遺伝子はIQと関係する
なんか根本的に違うぞ。遺伝子発現と遺伝をごっちゃにしている上、高学歴の小子化も考慮から脱落中。この程度のこと、誰からもツッコまれたことないのかな。
p.80 オスの本能 妻殺しは無罪 云々
平気で至近因と遠因を混同しまくり。遺伝子信者さんの一人なのかな。
「寝取った相手を殺してもかまわない」法律を普遍と思わせる誘導。文化環境によってバリエーションはさまざまであるところを自分の路線に都合のいい例だけをつまみ強調してこじつけ。素人読者を想定して記す場合はこの程度の正確さでかまわない?それともなめてる?
p.82 自分の遺伝子だと確認したい本能で嫉妬する
精神保健がらみで社会的構築な話を出しておきながら、嫉妬を云々するときにはご自分の偏見に合うように都合よく社会的影響を考慮からおはずしになる。
…ところで嫉妬は「病気」なのか?
p.86 いい男に選ばれたいという生物としての意識
なにそれ。よくわからない言い回しでけむに巻いているのかな。
p.91 生き延びるためにいろいろな遺伝子を作っておいた
これはなんでしょうか。インテリジェント・デザイン説の信者さんでしょうか。
p.106 異なる脳に惹かれるのが同性愛
中でも地雷が多い案件について、いいなぁ、ここまでほいほい自分の好きな仮説を記せるのって。…これはマジにふだんまわりにツッコんでくれる人がいない生活をなさっている…?
p.108 女は男社会の中で常に従属的で単調な立場に縛り付けられていた
お〜い。
どうも男女が関わる話になるととかく偏るようで。
p.113 バロン=コーエンの自閉症超男脳説の初出は「The Essential Difference」
それハードカバーは2003/04。
その本が出る前からバロン=コーエンは自閉症超男脳説を主張している。
地図が読めない女 自閉症が多い男
バロン=コーエンの超男性化脳仮説
2002/12 ★ The Spectator.co.uk Why women can't read maps
The high incidence of male autism reveals basic mental differences between the sexes
テストステロンレベルと自閉症 バロン=コーエン
2002/05 ★ Guardian Testosterone levels may cause autism
2002/06 ★ Trends in Cognitive Sciences Vol. 6, No. 6 The extreme male brain theory of autism
p.115 数学は男のほうが得意
これまでさんざ 「そういう巷説こそが悪い」という研究がなされ沙汰されてきたのに全然配慮なし。
統合失調症 それでどう救いになんのさ。結局当事者には毒にも薬にもなんないし。
p.169 うつ病がなければ、社会は人を蹴落とす利己的な輩ばかりになってしまう
ゲーム理論をお勉強なさって下さい。
p.175 知性や感性の低い人にうつ状態はありません
ヤバッ! ヤバくない? 大丈夫か? ついてけないぞ。
p.181 カザルスの例
p.235 ハンチントンの繁殖
不用意。浅く不適当にしか書けないなら書かないことを選べ。
結局、何の解決にもならない無駄知識に終始。
救いになってないどころか、よけいこじらせる部分も少なくない。
この程度の解釈が向上に結びつくというのであれば、古来用いられてきた「前世の因縁」云々のほうがはるかに適応性を発揮してくれるだろう。
古来の知恵に比してこの程度の提示しかできないのであれば、科学の名をかたっていただくのはいい迷惑な感じ。
ものごとには本来「意味はない」。
「意味がある」とするのは人為的に「意味をつける」行為にすぎない。
同じ意味づけ行為であれば、この本よりましな言説は世の中にあまた見いだせるであろう。
検索してみると、この著者けっこうたくさん本を出している。
加えて。
「インフォームド・コンセント 高田明和 大林完二」 によると、この著者の持論は「医者が患者に安心させる言葉を与えれば暗示で病気が軽くなる」てなものらしい。
とすると、彼は「あなたの病気は深刻なものじゃないですよ」という暗示パワー持論をこの本で実践しているつもりなのか。
それゆえに、
●病気については暗示や社会影響を強調
し、
●男女の言動については社会影響を無視する
という偏りを見せているってわけかい?
暗示をものの方便とみなすあまり、ウソも使いようと見なすあまり、半分トンデモに足を突っ込んでしまっています、みたいな感じなのかい?
科学屋さんはもっと 呪のかけ方に上手になってくれ。
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