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2004.05.12

鬼の復権 憑霊の夢幻能

 能が舞うのは、神霊や鬼に憑かれた人ばらの物語。

cover
「鬼の復権」

 萩原秀三郎著
 歴史文化ライブラリー
 吉川弘文館 2004/02

 [ Amazon ] [bk1]

 これも熱い一冊。
 いまどきは妖怪・陰陽道ブームで鬼を取り上げる若手の研究も多いのだけれど、この本の著者は古参の論の厚みと大陸文化をも含めた包括的な視座を見せてくれる。なんてなえらそうな言い回しで書いているけど、読んだ本についつい文体影響されてるだけっす

 古来の鬼の概念の由来は、ミャオ族などの大陸の系譜に由来する。
 本来は「鬼」は、姿無き霊や、力を指す言葉。

●本ミニ 「百鬼夜行の見える都市」  田中貴子著 新曜社 1994年
p.11
 よく知られているように、鬼とは本来目に見えない存在と考えられていた。

●姿の見えない鬼が、存在をあらわすために用いたのが「蓑笠(みのかさ)」。
 使用にタブーがまつわる蓑笠。
 蓑笠の原型は、カミのよりしろとなるチガヤ。
 異界からの訪問者が用いる蓑笠。
 笠地蔵。

●ホトケはお寺に「常駐」するが、カミは「常駐」せずにおりおり臨時に来訪なさる。
 ホトケは妙(たえ)なる調べでもてなされるが、カミの訪問は騒がしく鋭い乱声(らんじょう)で空間を切り裂いて迎えられる。
   (→ 埋もれた楽器

●中国をはじめ、太平洋圏に広く伝承されている「射日神話」:複数あった太陽を弓の名手が射落とし、残った一つの太陽が岩屋に隠れる
 「射日神話」は、日本では後半部分だけが沙汰されるが、前半を残す民間伝承もある。
 (日本書紀アマテラス云々の骨格)

●右画
●宿神(しゅくしん)と摩多羅(またら)神、さらには石神(シャクジン)の連関。

●3つに分類できる中世の能。霊魂が主人公である中世の能。
  翁の能
  夢幻能
  現在能
 この中の「夢幻能」は
   前半が取り憑かれた人の語り
   後半が取り憑いた霊の語り
という憑依の形式を見せる。
 うわ〜、能にはさっぱりうといものでこれは勉強になる。

●密接に関係する大陸由来の信仰体系
  ・太陽信仰
  ・憑依を伴うシャーマン文化
  ・柱信仰
  ・鳥を使いとする託宣
 三内丸山のクリ文化。

●魂の抜けをふせぐために用いられるアクセサリー。

p.205
 西欧で人間の対局に悪魔を持ってくるように、東アジアで鬼を人間の対局に置くことはできない。水と氷のようなもので、人間を離れて鬼はなく、鬼を離れて人間もいない。
 仏教は地獄と極楽を振り分け、鬼は地獄の獄卒とした。にもかかわらず、日本の鬼は極楽という他界からやって来る。
  中略
 鬼を一方的に悪鬼とするのは後の変化である。〜鬼の復権

 過去の鬼。
 そして仏教による変形をこうむり、時代変遷を経て、現在の鬼がある。

cover
「百鬼夜行-陰」

 京極夏彦著
 講談社 1999年
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p.134
 「鬼と云うのはね、普通人には出来ないことをするモノ、なんじゃあありませんか?」
 「人に--出来ないこと、とは?」
 「神通力とか天眼通/てんげんつう/とか、空を飛ぶとかね、そう云う魔法のことじゃないんですよ、それは髄かに人に出来ないことなんですけれど、どんなに決心したって絶対に出来ないことでしょう。やろうったって出来ません。私の申しますのはね、やれば誰にでも出来るけど、普通は絶対にしないこと、出来るんだけれども常人なら出来ないこと--と云う意味です。そう云うことが平気で、平然と出来る--それが鬼なんじゃありませんかねえ」
  中略
p.135
 「鬼と云うのは、人間が実行可能なのに中中出来ないことをするんですよ。それが出来る状態を鬼と呼ぶんですか。だから幽霊でも、ただ怨めしや、と云うだけの奴はただの幽霊で、それ以上のことをすると鬼になる。それは--」
 「生きていても--同じことですか」
 「そう。生きていても同じことです」
 そう云う状態を解り易く表現するのに角が便利なんですねえきっと--

●右画

 昔、鬼にはツノはなかった。

 昔、鬼には姿形もなかった。

 鬼は、祖霊であり、隣人であり、神であった。

p.206
 神と鬼、善と悪、聖と俗、差別と平等…、物事を対立した概念でとらえる思考方式は、一見論理的でわかりやすいがウソである。両者の間に、せいぜい「両義性」といった言葉をはさみ込んで穴埋めをしようと図るが限界がある。たとえば、老若男女、それぞれの力に応じて仕事を与えるとする。差別がそのまま平等であり、平等がそのまま差別ではないか。〜鬼の復権

 「鬼の復権」の著者は、今の世で一方的に悪鬼扱いされている「鬼」の意味転換もしくは浄霊を図ることを通じて、浅く配慮の足りない二元論が幅をきかし流通している今般に対してささやかに熱く異議申し立てを試みている。

〓ガラス棒〓

2006/05 蛇足追記:
 日本の「鬼(中国由来の怪異概念)」が、角を生やし虎皮を履いた姿になっているのは

    陰陽五行(中国由来の世界観)において
   「鬼門(怪異の出入り口)」は「丑虎」の方角に当たる

ことから、鬼門から至り来る怪異にウシとトラの姿を投影した結果。


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情報庫: 民俗学



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