女子割礼をはらむ意味物語 FGM
社会の一員として受け入れられるためには右の目を一つ摘出せねばならない。
そういう社会に産まれたら、あなたは喜んで隻眼になるか。
片目になるほうが社会生活上有利になるのであれば、あなたは喜んで目を潰すか。
胸がでかいほうがいいなら豊胸手術を受けるか。
美人がトクなら整形するか。
「奴隷として生きる上で必要とされるならば奴隷の入れ墨を刺すか」。
新書
「ドキュメント女子割礼」
内海夏子著
集英社新書
集英社 700円 2003/09
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女子割礼問題については、人知れずであってもすでにさんざ論争はされてきたであろうので、半端なかじり者の私が下手に書く必要もないと思う。
※ 岡真理「女性報道 カヴァリング・ウーマン」/「女性割礼」という陥穽
(所収:青土社「現代思想」1995/03 vol.23-03 特集:『サイード』)
これは ↓ に収録されているらしい。
「彼女の「正しい」名前とは何か 第三世界フェミニズムの思想」
岡真理著
青土社 2000年
ただ、 『物語』としての流れで言いたいことはある。
ここで「物語」とは物事の把握枠を提供する意味のネットワーク、意味の織物、を指したい。「世界観」に近い。価値体系、意味体系。
女子割礼はその社会の「世界観」の中で「意味」をもっているからこそ、保持され必要とされている。
「いまを生きる人類学:グローバル化の逆説とイスラーム世界」
大塚和夫著
中央公論新社 2002/01
[ Amazon ] [bk1]
p.241〜第四章 女子割礼および/または女性性器切除(FGM)一人類学者の所感
なぜ女子割礼はおこなわれるのか
人類学者ボディによるフィールドワークと考察が紹介されている
「この慣習は女性を清浄(pure タヒル)で、清潔(clean ナズィーフ)で、滑らか(smooth ナイーム)にするためのもの」
鳥のなかではハト、さらにナイルの水辺にみられる野生の水鳥が「清潔」とみられている。これらは、割礼を終えた若い娘の比喩としてもちいられている。
丸く、表面が滑らかで、白っぽい色をしている物体;ダチョウの卵やヒョウタンが、女性の妊娠と結びつけられている。
価値体系と世界観が【清浄・清潔・滑らか・白さ】をキーにして編み上げられており、その中で、女が結婚・妊娠する上で【清浄・清潔・滑らか・白さ】になるに必要かつ重要なものとして、女子割礼が位置づけられている。
女子割礼を否定し廃止しようとすることは、すなわち彼らの「世界観」を否定し、「必要なものを奪う」行為たりうる。
ろくに我々のことを知りもしない人間が、【清浄・清潔・滑らか・白さ】になる儀式を否定し、縁もゆかりもないヨソから【外人のように不潔・不浄・でこぼこ・黒ずみになれ】と押し付けてくる図。
ヨソの文化体系など地元の当事者にはそれこそよけいなお世話状態であろう。いくらヨソから見てとんでもない習慣であろうが、 まぁ、そういう反論もしかるべき場所ではさんざ既出だろうので。
ヨソからとやかく言われなくとも、その場の世界観が実情勢と齟齬をきたしだしたら、外圧でどうのと言われずとも自然にパンクだのヘビメタだの「別のありようを探るサブカルチャー」斥候たちが沸いて、意味世界の代替可能性バリエーションを自発的に探っていくだろう。
異文化の価値世界とおのれの持つ価値世界。
国 対 国、文化 対 文化 だけでなく、個人対社会、個人対家族…。
一つの物語は異なる物語とどう切り結ぶのか。
とりあえず、この項では旧来、彼らは彼らの価値体系の中で思考上抜きがたくその象徴を必要として生きてきたことを注意喚起しておきたかっただけで。
なにより現地の「実際の世界観」を踏まえずにこの問題を云々している例が多すぎる。
で、当該書「ドキュメント女子割礼」では、「いまを生きる人類学」で指摘されているような、現場の世界観に関する考察は抜け落ちている。内外の運動に関わる側の視点が中心であって、底辺の現場、衆生の世界観はあらわにしきれていない。
割礼という「生活上(意味体系上)必要なものを奪う」だけで代替物を提示しないままではことがうまく進むはずもなく(反発&拒否)、割礼行為の代替として”成人式合宿”みたいな儀礼を企画するというアイデアも実施されているようだが、結局それも当事者の意味体系の中で【清浄・清潔・滑らか・白さ】の代替になっているか否かという考察が抜けているままであり、十分な効果を発揮しきれてはいない。 パターナリズム、外部の人間の自己満足、の観がぬぐいきれない。
きっちり文化的・文化人類学的考察(構造主義とかさ)の援用を期待したい。
女子割礼について書籍を推薦するとすれば、
「いまを生きる人類学」のほうをオススメする。

女子割礼 関連記事:追記込み
2003/06 BBC News Female genital mutilation 'must end'
2003/06 BBC News Genital mutilation 'still common'女子割礼紛争@イタリア
2004/01 Independent Fury as Italians back female mutilation
女子割礼が招く不妊
2005/07 New Scientist Female genital mutilation can cause infertility
女子割礼は難産と死産の率を上げる
2006/06 EurekAlert Female genital mutilation affects births: Study
2006/06 BBC News Female mutilation is 'birth risk'
2006/06 New Scientist Female genital mutilation complicates births
女性器切除、出産時の母子に高い危険性 WHO調査
2006/06 【日本語記事】 asahi.com
おまえら伝統的な女子割礼を批判する前に、金持ち国の『美的な』性器整形をなんとかせんかい
2006/07 EurekAlert Tackle 'aesthetic' genital surgery in rich countries before criticizing traditional practices
「富める国の人間にアフリカの女性器切除を批判する資格はない」 〜せいみや
女子割礼
2006/11 BBC News Call to end female circumcision
情報庫: 医療人類学(女子割礼含む) 文化人類学 ジェンダー
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コメント
女子割礼は、イスラム文化の中での「彼ら」の物語・世界観かもしれないけど、果たして「彼女ら」の物語でもあるのだろうか。
「彼女ら」は物語を拒否できないような立場に追い詰められているのではないか。
本当は拒否したい物語を強制される時、共同体からのつまはじきを恐れるヒトは、どこまで自己の物語を主張する勇気があるだろうか。日本の戦時中の「非国民」の物語に抵抗しうる力をもった者はどれだけいたか。
・・・というようなことを考えました。
投稿: ホタル | 2008.08.17 15:30
アジアの人間や女性は「共同体からのつまはじきを恐れるヒト」という面を強調しがちです。
この問題に関しては、当事者も含め世界中で延々意見が応酬され続けています。
ご興味がおありでしたら、何冊か関連書をひもといてみられるといいでしょう。
投稿: 雨崎 | 2008.08.17 19:06