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2004.06.15

破滅と古事記、猥雑なポンペイ、火砕流

天罰として、神の所業として語り継がれる火山災害。そして罰を受ける直前の、ポンペイの衆生の暮らしぶり。

cover cover
「神々にあふれる世界 古代ローマ宗教史探訪」 上 キース・ホプキンズ著 岩波書店 2003/11 (1999/A World Full of Gods)
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火山小説 「死都日本」 石黒耀著 講談社 2002/09
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  「死都日本」はみごと。
  露頭法面や地学もけっこう好きな私、非常に面白く読みました。
 出版当時、火山学者さんのたまり場でもかなり評判が良かった作品。お医者さんが書いた処女作ってことにも驚きで、火山オタクの層はホントに厚いんだなぁと。

 で、かなり売れた本なので おもだった書評はよそにまかせるとして、「死都日本」の冒頭にはヴェスヴィオ火山で火砕流に覆われたヘルクラネウムの悲劇が簡潔に描写されている。

p.10:死都日本
三十七の絶叫が地下ドームに満ちたが、風圧が一瞬のうちに全員を薙ぎ倒し、鼓膜を破った。
 ○・八秒後、摂氏三〇〇度を越す瘴気/しょうき/が人々を襲い、血液が沸騰し、皮膚が風船の様に膨れて…
p.19:死都日本
発掘が容易だったため、世間ではポンペイばかりが注目されていますが、実際はヘルクラネウムの方が火山学・考古学・宗教学的に重要な情報を秘めていると考えられ

 さて、世間ではヘルクラネウムよりがぜん知名度が高いポンペイ。
  「神々にあふれる世界」上で、ポンペイの在りし日の町の様子が活写されている。
 まさに活写。 コニー・ウィリスよろしく、タイムトラベルで送り込んだ研究者2名の手記という体裁を採っている。
 ヴェスヴィオの噴火がヘルクラネウムとポンペイを火山性生成物で厚く覆い尽くしたのは79年。タイムトラベルで描かれるのは77年のポンペイ。
 生きているポンペイ。
 その街のようすは端的に言えばエッチ。俗物。猥雑。
 人混みあふれる街には神々の像もふんだんに、壁には色とりどりのラクガキ。政治的スローガンから他人の悪口やらエロマンガだの。
 同性愛やら小児愛やら酒場の淫蕩やら…。
 ちょっと身なりのいい人間に必需品なのはお供の奴隷。
 大衆浴場のモザイク壁画は性交体位のあれやこれやをあられもなく。
 巷には怪しい宗教や儀式も日常的に。
 古代の暮らしの面白さがきわどくシミュレート再現されている。
  岩明均のローマもの(ヘウレーカやヒストリエ)はかくのごとき宗教・文化面の描写が欠落していてすこぶる物足りない。

 この猥雑さきわまる風俗の中からいかにしてエッチ潔癖症の基督教が誕生してきたか。(神々にあふれる世界)
 ポンペイの破滅の原因は、かくのごとき猥雑と放蕩と堕落だったのか。
 旧約聖書に記されたソドムとゴモラの破滅は火山災害を描いたものだとされる。(死都日本)

p.22:死都日本
聖書辞典によれば、『後ろを顧みる』は単に後方を振り返るということではなく、後に置いてきた家財や知己を思うことだそうである。
 ポンペイの被災者は、財産が心配で逃げ遅れた資産家や、警備に残された奴隷・犬、一旦は避難したが噴火の小康時に家財を取りに戻った人達が火砕サージに巻き込まれたのではないか

 欲深き人々が灼かれたのだと。

 「死都日本」では、そのほか聖書や古事記における古代の火山災害の描写と思われるくだりの解釈が随所に登場する。
 火山として解釈されるイザナミ。
 被災直後の「黄泉の世界」。
 特殊な降灰現象を描写したとされる語『狭蝿/さばえ/』。

 黄泉往復説話については、型としてみた場合、同型の説話が世界各地に分布していたと思うし、これをもって即古代日本がどうのといいきれるかどうかはさておき、火山災害を語り継ぐ説話は考慮からは抜きがたく古来から存在はしえているわけで。説・思考実験としてはとても面白く。

〓クール〓

●右画
 しかし、「死都日本」では被災後の日本の人口は10分の一になるとされている。
 その一方で日本はうまく立ち回れば十分復興が可能だとも記している。
 その妙な楽天さが隠すようにして欠いている「9割の死」を経る人々の物語はどうなるのだろう。

 人は突然の災害に遭うと助け合い救いあう。利他行動が誘発される。
 が、長期の災害に遭い、それが過酷なものであれば、関係性は崩壊し ブリンジ・ヌガグをあなたがそのままなぞることにもなりかねない。

 災害を語ることは簡単だが、生きぬくことは困難であるからこそそれは災害なのであって。


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