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2004.06.29

日本の森にオオカミ?

 ニホンオオカミについての研究はこんなものではないと思うのだが…
 2冊、 「ニホンオオカミという魔よけ」 で記した呪力由来の手がかりがあるかと思ったけれど肩すかし。

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「日本人とオオカミ 世界でも特異なその関係と歴史」  栗栖健著 雄山閣 2004/02
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「日本の森にオオカミの群れを放て オオカミ復活プロジェクト進行中」  文・吉家世洋/監修・丸山直樹 ビイング・ネット・プレス / 星雲社 2004/04
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●本ミニ 「日本人とオオカミ 世界でも特異なその関係と歴史」

 土着の感覚(オオカミに近しい習俗)と外来の感覚(オオカミを忌み嫌う中国)のはざまで曖昧に揺れながら経緯した日本人の狼観。
 ひとなつこい行動をとる狼。文字通り「送り狼」をやるニホンオオカミたち。
 オオカミが人を殺しても、凶獣の所業ではなく神意の現れだと受け取っていた古代。
 オオカミ信仰がお稲荷さんに転嫁したらしい中世。
 人を襲って食った記録が多く残る18世紀(飢饉と環境破壊の影響らしい)。その当時までは「人食い狼」という表現は存在していなかった。
 加えて、狂犬病の流行により、凶獣としてのレッテルが幅を効かす近世〜江戸時代。

 古文や原文の引用が豊富だが、古文・漢文が苦手な人間がもう少し読みやすいと感じるような流れにしておいて欲しかった(フォントを変えるとか、段落空けるとか、読み下し文つけるとか)。古文・漢文好きとニホンオオカミの意味を探りたいという人の層はそんなに重なっていないだろうし。

 具体的な信仰の中身の分析まで行ってくれれば助かったのだけれど、文献証左の列挙で手一杯な感じが強く、あまりうがった解釈や講釈はしていない。
 …著者は新聞記者さんだったそうで、そう言われればこの内容はさもありなんかも。

挿画

●本ミニ 「日本の森にオオカミの群れを放て オオカミ復活プロジェクト進行中」

 やだなぁ、この本。
 書き手は「科学ジャーナリスト」、監修は学者さん。
 で、この書き手が
とっつきやすさと軽薄さを混同している

 タイトルからして危ない信者さんのイッタ本かなという予測があった。
 が、冒頭 p.6 に
一見、危ないマニアが企てたキワモノ的印象も受けるが、
実はさにあらず。
東京農工大学の丸山直樹教授が中心になって進めているまともなプロジェクトで、
最先端の生態学に基づいた合理的で壮大な自然な修復計画だ。

とあるので、ふーん、まともなのか、といったんは感心したんだけどね。
 残念。
 書き手が本文でキワモノ印象を盛り上げ振りまいているじゃんかよ。

 具体的データが上がってない。分布図が欲しい。調査結果を示して欲しい。のに。
 論拠が十分である印象がない。
 海外でうまくいっているから海外の学者が大丈夫だというから、のお経となえまくりみたいな。信者じゃん。
 おまけに「ドーシテ」だの「ダイジョブ」だのという表現を織り交ぜるという、そこらのブログレベルのようなとっつきやすさと軽薄さを混同した文面で、無用に読み手に「信用できない」軽薄な印象を与えまくり。

 読み手を説得したけりゃ表現上それなりの節度は必要だろう。
 なんか書き手が勝手に盛り上がっててヨサコイソーランの企画書見せられてるみたいだ。
 (ちなみに@札幌。ヨサコイソーランに反感持っている地元民は少なくない。私はあれは「何も祭ってないのにヨサコイソーラン祭と称するとはけしからん、ヨサコイソーラン・カーニバルと呼ぶならまだしも」という立場)

 オオカミが生態系をコントロールしてくれると言う。
 補食頂点のオオカミがいなくなったから生態系がバランス崩しているという。
 それは首肯するが、オオカミ導入後の展開を過度に楽観視していないか。その危惧を文面の軽薄さがよりましに煽ってくれる。

 オオカミは人を襲わず自己完結的に頭数をコントロールし害獣を食ってくれるという。
 オオカミは銃を怖れるから人は襲わないと言う。
 じゃ、前記の「日本人とオオカミ」にある18世紀日本の人食いオオカミはどうなのよ。銃を持たない女子供がほいほいオオカミに狩られているよ。
 そういう反証をしっかり紹介も論駁もせずに「害を及ぼしたら行政が保証する制度を作ればいい」とおっしゃっている。クマに殺された人が保証なしで放置されているのに。(北海道的には真剣) たとい保証されても、死んだ人間、こうむった障害は取り返しがつかない。
 「めったにない」とおっしゃるが、一度でもあったらそれはその個人にとっては「すべて」。そういう地元当事者の心をどう懐柔するのか、折り合いをつける気か、そのあたりの考察は全然はしょっている。なんかこれでは長良川堰を「作るぞ」と言っている側とどう違うのかよくわからなくなってくる。

▲アンカー あとね、すげアホかと思ったくだり。
 余談だと断りながら記しているが、それならなぜこれを書いたのか。この余談を書かないという選択をなぜしなかったのか、小一時間ほど問いつめたい部分があったんだが。

p.36 (須甲鉄也博士・故人の話として紹介しているくだり)
 人間も例外ではあり得ず、男は生物学的に本来弱い存在。それなのに、最近のように男性が社会的優位まで失ってくると、今でも短いヒトのオスの平均寿命は、今後、さらに短くなる一方。遠からず、脊椎動物門哺乳網霊長目ヒト科ヒト種は、オスとメスのバランスが崩れてしまう可能性が高い。
 だが、ヒト科のメスの中では知的レベルが高いはずの、女性の教授、助教授連中にこの生物学的危惧を訴えても、例外なく、こんな答えが返ってくる。
 「須甲先生、いったい何をおっしゃりたいの。そんなもの、科学に名を借りた女性差別主義者の姑息な詭弁に決まってます! 保守反動もいいとこよマッタク!」
 彼女たちの中には、ここでメガネに手を添え、急に興味津々の目になってこっちの顔を覗きこみ、的はずれの蛇足をつけ加えた者もいた。
 「先生、もしかして、奥様とうまくいってないんじゃありません?」
 マッタクといいたいのは、こっちの方である。マッタク!
 女性はこの生物学的危惧に対して、聞く耳をもたない。そして、社会的にも女性が強くなる傾向が、年々進行している。
 人類の将来は、まさに暗たんたるものである---。
 
p.41-42
 地球上で繁栄している動物は、みんなメスが優位の種です。中でも、一番栄えているのは人類でしょうね。
 ということは、動物の中でもメス優位の傾向は人がもっとも強い可能性がある。その生物学的優位にある女性が、社会的にも男を圧迫するようになれば、人類の男女の人口バランスは崩れます。これは、イデオロギーを越えた生物学的な見通しです。
 女性が強くなると、人類は滅びるんです!

 呆れるのは、これを死んだ人間のセリフとして紹介し、筆者の主張ではないのだという体裁でしらっと「関係ない本に余談として記載する」この筆者の神経。
 専門家のセリフだからという体裁を採ることによって威光暗示しようとしているらしいが、何の専門家よ。進化学や生態学、社会学、人口動態の専門家じゃあない、ザリガニ研究の動物学者じゃん。動物行動学の専門家が、人間行動・人間社会についてトンデモなことを言っている例はよくあるわけで。
 で、科学ジャーナリストだという筆者の吉家世洋は何を言いたいのか。この本文無関係な余談をわざわざここに載せた意図は何なのか。この須甲氏のセリフだという部分を頭から信じ賛同し吹聴したがっているのか。

 しかし、上の引用部分はいったい何十年前の話なんだろうか。「例外なく」という研究者としてあるまじき表現をしてしまう神経、これがまかり通った時代はいつだったのか。今?
 筆者は未だ「男というアイデンティティ大好き固執」なキャラやってるのか。
 え〜と、どれだったかな。
 このあたりご参照を。
  ┣ 男は死ななきゃ治らない場合
  ┣ 男女産み分け着床前診断
  ┣ 男は不要?女性支配の未来
  ┗ オス不要で誕生して何が悪いのでしょう?

 ともあれ、なぜ女性が強くなると人類は滅びるのかわけわかんない物言いは却下。科学ジャーナリストなら、読者の科学知識レベルをなめずに、性淘汰の検証も含め科学的立証をきっちり添えなさい。
 それともこの場合、人類という言葉が指すのは単に「今男が男に抱いているナルシスム」という概念なのかな?彼の中では人類=男?

 それにしても、進化と生態系についてこれで本当に詳しいと言えるのかのたまえるのか、社会的影響もろくに考察できていないような、かなり濃いうさんくささを感じる、本来の意図とは逆の効果をふりまきそうな怪書。ですね。

 監修の丸山直樹さん、これでOKして良かったの?

情報庫: 人と動物の関わり   民俗学   生態系
 参照: 「ニホンオオカミという魔よけ」

挿画

以下追記:

ハイイロオオカミ、絶滅危惧種から復活 米21州で宣言
2004/07 【日本語記事】 asahi.com : サイエンス
ハイイロオオカミ、もう保護するのはやめようよ
2004/07   Gov't Seeks End to Gray Wolf Protection Yahoo! News
2004/07 New York Times  Washington Proposes to Remove a Wolf From Endangered List

オオカミの導入で変化したイエローストーン公園の生態系
2004/08 EurekAlert Wolf reintroduction reshapes Yellowstone ecology

2004/09 New Scientist Crying wolf over predator attacks

オオカミ導入が及ぼす動物行動の変化
2004/12 Oregon State University Wolves gone, western ecosystems suffer

狼を殺して減らす決断 〜ノルウェー
2005/01 BBC News Norway to kill 25% of its wolves

ハイイロオオカミの導入は、気候変動による生態系ダメージを軽減する
2005/03 EurekAlert Wolves alleviate impact of climate change on food supply, finds new UC Berkeley study

イエローストーンのハイイロオオカミ
2005/03 EurekAlert Gray wolves maintain the food chain in winter

保全:最上位の捕食者と生物多様性
2005/07 Nature Conservation: Top predators and biodiversity

オオカミを再び知床に 生態系回復で財団が検討
2005/08 【日本語記事】 ヤフージャパン(共同通信)

オオカミ導入の波及効果
2005/08 EurekAlert Wolves' top-down effect
 Presence of canine predator cascades through populations of elk, trees, beavers, and songbirds

生態系へのオオカミ導入の是非
2005/12 PhysOrg.com(UPI) Many in West fear wolf reintroduction
2005/12 PhysOrg.com Wolverine at home in 'Wolverine State'

オオカミ導入11年目のイエローストーン公園、幼いオオカミがどんどん死んでいる
2006/01 National Geographic Dog Virus May Be Killing Yellowstone Wolves

エルクが減っているのは狼のせいではない?
2006/01 PhysOrg.com Report: Wolves blameless in elk loss
The big, bad wolf may not be to blame for the drop in elk numbers in Yellowstone National Park.

オオカミ、もう保護するのはやめよう
2006/03 PhysOrg.com Wolves might be cut from endangered list
2006/02 USA TODAY Wolves may drop off US endangered list

スカンジナビア半島におけるオオカミ復帰、一般市民の悩みの種に
 増えすぎたオオカミが、飼い犬や家畜を殺す
 分断された生態系で、オオカミが近親相姦状態に
2006/08 National Geographic Wolf Comeback in Scandinavia Stifled by Public Outcry

なぜオオカミはイエローストーン公園でなかなか生息域を拡大しなかったのか
2006/11 EurekAlert Researchers determine why wolves not dispersing as fast as expected in Yellowstone

オオカミの近親相姦、予想ほどじゃない
2006/12 EurekAlert Wolves are suffering less from inbreeding than expected
 同系交配レベルの増大は、スカンジナビアのオオカミにおける脅威
 
2007/08 EurekAlert Wolves find happy hunting grounds in Yellowstone National Park
オオカミは、イエローストーン国立公園で極楽を発見する
生物学的科学者は、774のオオカミ-ヘラジカ殺し現場を分析した
オオカミとヘラジカの捕食空間パターンは、オオカミ分布よりは景観特徴によって 強く影響される

飼育した肉食獣を環境に再導入しても、その3分の2は不適応をおこして死んでしまう
 だいたいがこれ、人間のせいなのであって
2008/01 EurekAlert Captive carnivores not up to wild living
おおかたの虜生まれの捕食動物は、野生にはなつと死ぬ
2008/01 National Geographic Most Captive-Born Predators Die If Released

〓ガラス棒〓

追記:2007/04 
◆新刊
 『日本の森にオオカミの群れを放て
 改訂版 オオカミ復活プロジェクト進行中』

 吉家 世洋
 ビイング・ネット・プレス (2007/04)


 改訂版の登場だそうです。
 どこを改訂したのかな?
 旧版は「トンデモ本」にノミネートしようかという話が出るほどの逸品reelingだったんだが、その「トンデモ」部分を改訂したのかな? それとも…?

追記:インタビューです
2007/11 【日本語サイト】こだわりアカデミー
 【環境・生活】 丸山 直樹 絶滅したオオカミの「復活」が、日本の自然を救う?!


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情報庫: 人と動物の関わり   民俗学   生態系
 参照: 「ニホンオオカミという魔よけ」



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コメント

こちらの ご意見 をごらん下さい
また、アメリカもたいへんなようです
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アメリカの関連リンク

投稿: もべたん | 2004.07.09 16:20

情報ありがとうございます。
うわ〜、なんかやばいですね、賛否両論の錯綜。
しかし、くだんの本は「アメリカにならえ」と掲げておきながらアメリカで起きている「問題」についてはほとんど記してなかった。ヤバ。

投稿: amasaki | 2004.07.10 09:13

オオカミ導入が及ぼす動物行動の変化
2004/12 Oregon State University Wolves gone, western ecosystems suffer

投稿: Amasaki | 2004.12.11 21:04

僕も読んではいませんが、改訂してもそれほど内容が変わるとは思えないですね。
数年前のニホンオオカミのシンポでも、オオカミ導入のリスクについて「オオカミが人を襲った話は聞いたことがありません」程度の話しかしておらず、定量的なデータが不足しすぎていましたし。

知床のグループが、キチンと文献とかを調べて、導入に必要な条件やリスクについてレビューしています。

日本への導入の可能性とリスクについては、もうこの文献に尽きていると思いますね。

知床に再導入したオオカミを管理できるか 米田政明(知床博物館研究報告27, 2006)
http://shir-etok.myftp.org/page/shuppan/kempo/kempo27/01_YONEDA.pdf

オオカミ被害は、家畜被害を中心にかなり事例があり、再導入した後の管理はやはり難しいようです。
全道で、オオカミ被害のリスクが社会的に受容されない限り、とても再導入はできないでしょう。

この知床博物館研究報告(http://shir-etok.myftp.org/page/shuppan/kempo/kempo.html)には、他にもいくつかオオカミ導入を検討した論文があります。

また、オオカミや関連してシカの問題に関しては、この書籍がお勧めです。

2005年の8月に札幌で開催された第9回国際哺乳類学会での知床とイエローストンの比較シンポジウムの講演記録です。

【書名】世界自然遺産 知床とイエローストン 野生をめぐる二つの公園の物語
【編者】D・R・マッカロー(カルフォルニア大学バークレー校 名誉教授)・梶光一
(北海道環境科学研究センター主任研究員/現東京農工大学教授)・山中正実
(知床財団事務局長)
【判型】B5判・並製・315ページ(うち英文112ページ)
【価格】定価:2,000円(税込み)
【発行】知床財団 (協力 朝日新聞社)

発行元の知床財団に電話等で問い合せれば、販売していただけるということです。
知床財団
http://www.shiretoko.or.jp/04zaidan/zaidan_map.html
(HP内の「賛助会員募集」に連絡先電話番号があります)
知床自然センター
http://www.shiretoko.or.jp/index.htm
(このセンター内に財団があるとのことで、電話番号も同じです)

もう一つ。

世界遺産をシカが喰う シカと森の生態学  湯本 貴和 著
文一総合出版 (2006/03) ASIN: 4829911905

日本の森林生態系の保全のあり方について知りたいのであれば、これが面白いと思います。
最新の現状や山積みの課題、取り組んでおられる方々の苦労などが描かれています。

投稿: BJ-cedar | 2007.05.08 20:21

 「知床博物館研究報告」のPDF拝読いたしました。米田政明氏の稿はスゴイですね。狭い日本、そんなにオオカミどこに棲む。
 現状、北海道ローカルのテレビ番組ではオオカミ導入論議についてとりあげているものは見た覚えがないのですが、実際このオオカミ再導入論議の存在を知っている北海道民の割合はどの程度なんでしょうね。たいへん低いような気はするのだけれど、道東ではなんぼか知られている率は高めなのだろうか。

 丸山直樹(編)『オオカミを放つ  森・動物・人のよい関係を求めて』(白水社 2007/01) と、「世界遺産をシカが喰う」はさっそく図書館から借りてきました。これから読みます。
 「世界自然遺産 知床とイエローストン」は札幌市内の図書館に蔵書あり、でも残念ながら「貸出禁止図書」扱い…。とりあえず近日中に時間を作って閲覧しに行ってみます。

>全道で、オオカミ被害のリスクが社会的に受容されない限り、
>とても再導入はできないでしょう。

 ふだんから、ふつうに町中や裏庭にエゾシカが迷い込んだり、住宅地で人がクマに襲われたりしているわけですからね。その姿がオオカミに置換される。これはイメージ的に恐い。
 オオカミ自体に対して大がかりなイメージ改善が成功したとしても、そも日本では行政施策に対する不信感が、欧米より格段に高いのではないかと…。

投稿: 雨崎良未 | 2007.05.09 09:39

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