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2004.10.15

防衛庁経由・うつ病救済行き

 この本面白い。
 防衛庁から進化精神医学へのラブコール?
 軍隊と進化心理学は、こんなに相性がいいもんなのかと感心してしまう。

cover

「人はどうして死にたがるのか
 「自殺したい」が「生きよう」に変わる瞬間」

 下園壮太著
 文芸社 2003/12

 [ Amazon ] [bk1]

 「人はどうして死にたがるのか 「自殺したい」が「生きよう」に変わる瞬間」、このタイトルと装丁がかもし出すものは、この本の後半に入っている。
 前半はかなり別物。
 見た目とタイトルの印象で読み始めると、前半でちょっと「なんじゃこれ」状態になるかもしれない。

挿画

●前半はうつの進化精神医学。
 読み手はちょっと戸惑うかもしれないが、困っている人を救う話は後回し。
 なぜ人間はこのような心理的に困っている状態に陥るのか、 進化心理学的に感情とその障害のメカニズムを講釈してみせる。それも「原始時代由来の感情プログラムが誤作動をする」という切り込み方で。
  「うつ病進化と抗欝剤ネズミ」 で紹介したうつ状態の進化学的由来解釈を、さらに躊躇なく展開させてしまった感じ。
 かてて加えて。
 その講釈の中に
   湾岸戦争のテント
   自衛隊の災害派遣
   軍隊の行軍訓練
   たとえで登場する”戦闘機”

などの「あれ?」な色のエピソードがちらほら登場してくる。

●右画
 ふと確認すると、この著者防衛庁関係のカウンセリング専門家
 それでなのか、話が実に「組織&システムの中で、パーツとして動く人間の内面不調をプログラムバグとみなして扱う」という、実務上で使い勝手が良い切り下し方になっている。軍隊教育の現場で講義を聴いているような感じもそこはかとなく。
 内容がおかしいというわけではない。
 従来の市井感覚からはちょっとかけ離れてしまうかもしれないが、科学的 (科学的に実証されているわけではないが今の進化心理学をちょいといじるとこうなるよな、みたいな話の持って行き方)にはこっちのほうが正解だと思う、と同時に「うわ、科学的っぽい解釈って、軍隊のような組織運営とこんなに相性がいいのか」という微妙にエンガチョな感想を持ってしまう。
 でも、この自衛隊っぽさは、この著者の芸の一つ、持ち味の一つでご愛敬だと思えば、まぁそんなにハナについてはこない。
 逆にいえば、そこらの精神科やカウンセラーよりはずっと実務に優れた立場、防衛庁じこみのすご腕カウンセラーが記しているといった内容の一品だ。

 おかしさが目立つ部分は少ない。
 無いというわけじゃないけどね、特にp.88からの「種の保存の欲求」や「絶望のプログラム」から自殺による血縁貢献がありえるとするくだり。
 「種の保存の欲求」で「死を選ぶ」というのは誤謬だと思いますよ。死の概念が共有されており、自殺という手段を理解し、自殺が救済としての価値概念ミームを帯びていて、はじめて人間において自殺は選択肢として選ばれるのであって。自殺を選ぶと解釈するのではなく、救済の選択肢の一つとしてたまたま存在するミーム「自殺」を選んでいるだけ。 救済の意味を帯びていなければ、自殺は選択されない

挿画

▲アンカー 後半はうってかわってまるで別人が記したような。
 装丁の印象に即したような本来の「人の救い方伝授」。

 特筆すべきは、本人がこれだと思い込んでいる原因は違うのだということを説得力ある筆致で記してあること。
   〜〜のせいで。
   **しさえすれば。
   ##だったらよかったのに。
 そういうしがみつきは、感情の不調から来る勘違いにすぎないのだと。
 その思い込みが成就しても苦しみからは救われはしないのに、それで救われるだろう救われるはずだとむやみにしがみついてしまう、下手すると自縛&自爆に向かってしまう、そこがすでにビョーキなのだと。

 自分の中にあるストーリーを書き換えること。
 それはカギなのだが、困窮の果てにあるご本人にはすでにそのストーリーを書き換えることさえもが困難になっているのであって。
 なぜ人間の感情はこうなっているのか、なぜ人間に表情が備わっているのか、進化心理学的に講釈しながら、不調は誰のせいでもなくどんな事件が悪いわけでもなく、脳のプログラムがバグってしまったからなのだと、心理的負担・負い目から人を解放すべく、著者は感情の誤動作メカニズムに 外在化させることを試みる。

●右画
 「回復時がデジタルっぽい」という指摘は言い得て妙。
 人間が感情障害から回復してくる流れは、しだいに少しずつ良くなっていくというようななだらかなものではなく、突如不安になり、けろりと平安になり、また急に胃の腑が締め付けられ、というオンオフが頻繁に発生する、なかなか中間がない。
 三寒四温じゃないけれど、へろへろっとハイになったなと思ったら、次の瞬間は足が一歩も前に出ないという濡れ布団を後ろから肩にべったりかけられたような恐ろしい状態に陥ったりする。
 しんどい。

 著者は受診を勧めている。
 素人の下手な対処はまずいことを指摘してくれている。
 受診のさせ方も真摯に提案してくれている。

 前半も後半も、使えるし、よく書けている。
 買って損はない。
 いや、下手な本を複数冊買うよりはこれ一冊で行ってもいい。勧めて可。

挿画

 ただし。
 うつの本人が読んだらダメだ。 よけいきつくなる。
 「人を救いたい」と思う人が読むべきだ。
 救われたい人間や救われていない人間にはきつすぎるくだりがある。

 本人と関係者両方を救う本って著すのは難しいよな。
 うつを「科学的に効果的に」理解したい人にオススメ。
 メンタルに同情を求める人にはちょっと味が違うかもしれない。

 ”メンタルな同情”のひとつの側の極が描かれている好著、 「救急精神病棟」 もご参照を。


へぇボタン:へぇ〜 と押してみるもよし

情報庫:  うつ・自殺 進化心理学・進化精神医学   精神保健



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