やわらかな遺伝子語り部
ナンちゃんに似て蝶のマット・リドレー。
こんなルックスですが、その執筆手腕は第一級でございます。
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「やわらかな遺伝子」
マット・リドレー著
紀伊国屋書店 2004/04
「Nature Via Nurture 2003/04」
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日々 ごちゃごちゃと流れてくる大量の研究情報を取捨選択整理し図として描きあげる。毎日毎日有象無象な学術記事の流れを斜め読みし幻惑されている身としては、うまい人間が投網すればこの早瀬の混沌の中からかくもみごとな絵がさらいあげられるのかと嘆息しきり。
前半の情報エッセンス詰め込み度はかなりのもの。そのせいか、はしょった末の勇み足もいくつか。どれが勇み足かはなかなか見つけにくいかもしれないが。
詰め込まれた2002年当時の先端情報たち、それらが正しいコネクションを求めてわらわらとせめぎあう、そんな成長著しいニューロン群の先、未来を描こうとしているような。
そして後半は筆者の見解を前に出した冒険に踏み出す、これまでの著作でも展開段取りはそんな感じだったが、特にこの本では著者が確信しきれていない揺らぎが前に出て目立つ。
行動は遺伝するか。
性格は遺伝するか。
知能は遺伝するか。
それはどの程度か。
地雷だらけの案件に切り込むリドレー。
それは成功しているか否か。
原書の書評
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●氏か育ちか以前のレベルな書評:動物とヒトの遺伝子差でうろうろしている段階
チンパンジーとヒトの遺伝子差は紙一重
2003/03 ★ Guardian You're mostly a monkey
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●「自由意志」の呪いの中でもがく西洋人
造語「GOD」で宗教信者の心もくすぐるリドレー
見るべきは「自由意志」についての彼の見解
2003/06 ★ BMJ 2003;326:1402
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●哲学畑からの苦言
人間も動物だというところから始めねばならない西洋人
遺伝するシステムとしての「愛」
頭の良し悪しも遺伝子のせいだというリドレー
不十分な議論の中、突然遺伝子還元主義に警鐘を鳴らし出すリドレー
どこか混乱している、彼が言う環境とは何だ?
近親相姦では最多である父子相姦を無視
リドレーは心脳問題を充分把握できていない
詰め込み過ぎの末に困惑したまま締めくくる著者
結局誰に対して著しているのか定かになっていない
2003/07 ★ Metapsychology
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●科学畑からの書評
「氏か育ちか論争」に食傷していてもこれは読むべき一冊
論争の仲裁者として立ち上がったリドレー
難点は個人の遺伝子表現型と種間遺伝子差の混同の気配
そして不十分かつ浅慮な統合失調症の進化精神医学解釈
存在意義がちょっと呑み込みがたい造語「GOD」
遺伝子が環境によって挙動が変わるという事実は「氏か育ちか論争」に決着をつけはしない
まして環境によって挙動が変わるのは遺伝子以外の成分でも同じこと
なぜ彼は統計と機序をごっちゃにし、一部のゲノム研究だけを特に強調するのか
列挙された研究は実際にはヒトゲノム計画とは関係なかったものばかり
結局リドレーは「遺伝子万歳屋」だったということなのか
2003/07 ★ The New York Review of Books What's Not in Your Genes
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●進化心理学畑からの書評
「育ち経由遺伝子行き」よ、永遠に!
12人の開拓者から解き明かす人間の性質
いささかはしょった部分も目立つ
それはともあれ、多岐に渡る分野の成果をかようにうまくまとめ上げる手腕は貴重だ
2003/10 ★ Evolutionary Psychology 1: 188-191 Long live nature via nurture!
2003/11 ★ Human Nature Review On Nature (Versus) And Nature
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マーゴ・ウィルソンによる書評
2003/05 ★ The Globe and Mail A genetic truce
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マイケル・ルースによる書評
2003/07 ★ New York Times 'Nature via Nurture': It's Genetic, Sometimes
(マイケル・ルース= 「Darwin and Design」 「Cloning」 「Can a Darwinian Be a Christian?」 )
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2003年度の優良科学書
2003/12 ★ Independent Science: The year's best books reviewed
原書:
ポストヒトゲノム時代の氏か育ちか論争
マット・リドレー
Nature Via Nurture: Genes, Experience and What Makes Us Human
Matt Ridley (著)
(2003/04)
原書のほうが装丁かっこいいんだけどなぁ。
邦訳書の装丁が原書の装丁を超えてくれることはあまりないみたいなんだけど、なんかやぼめの装丁のほうが日本では売れる、みたいなとこあるんでしょうか。

それにしてもいろいろ列挙される研究や見解や論文トピック、懐かしいものも多く見受ける。
p.11、↓のリフレインだ。
●ヒト遺伝子の数が3万個くらいだとわかって大騒ぎした頃の記事
遺伝子の少なさは人間の自由意志と環境影響の大きさを表すだと?
だとしたら、ハエやバクテリアのほうがでかい自由意志を持ってるってことになるぞ
まだまだ遺伝子の解明は今程度の解析では不十分 〜 マット・リドレー
2001/02 TELEGRAPH / CREEC It's not all in the genes By MATT RIDLEY
ミッジリーやマレク・コーン、ジョン・マニング、日本では知られていないが海外のウェブ記事ではよく見聞きする名があちこちに登場する。
P.79からの”マネーかダイヤモンドか?”については、著者がここを今年書いていたらと思うと…。今年の春に自殺してます、この被験者。
「医者の確信という恐怖 ブレンダと呼ばれた少年」
を参照のこと。
p.249からのハリー・ハーローによる愛情実験”子ザルと作り物の母ザル”については一冊まとまったものがある。
↓
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ハリー・ハーローと愛情の科学
by デボラ・ブラム
Love at Goon Park: Harry Harlow and the Science of Affection
Deborah Blum (著)
(2002/10)
p.339、”人間はスペシャリストたるべく道づけられる”みたいな見解を出しているが、これは ニスベット的には「あんさん、その見解は西洋人的に偏っていてはございませんか?」というツッコミができそうだったりする。
● p.205からのジョン・マニングの”指の長さと男脳女脳”については
「指の長さと脳みその性別」参照。
● p.349、暴力行動とMAOA遺伝子の関係については、
「先天的犯罪者とMAOA遺伝子」を参照。
マット・リドレーの旧作邦訳書![]() ![]() ![]() ・赤の女王 ・ゲノムが語る23の物語 ・徳の起源 |
マット・リドレー曰く:
マット・リドレー ネズミと大差ないヒトゲノムについて語る
2004/07 prospect-magazine.co.uk Humans have no more genes than mice, but don't feel small: Matt Ridley
マット・リドレー 遺伝 vs. 育ちについて語る
2003/06 ★ What Makes You Who You Are TIME.com
マット・リドレー、ゲノムを語る
2003/07 ★ THE GENOME CHANGES EVERYTHING: A Talk with Matt Ridley Edge 119
で、当該書を読んでも、確かに「統計が何だってのさ」「環境って結局何」みたいなフラストレーションは残る。
氏と育ちだの、 自由意志だの、海のこちら側ではよくわかんない強迫観念の残り火もふつふつしているし。
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