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2005.01.17

原罪としての農業

 なんで農業が罪なんだ。農耕は何か悪いことなのか。
 人類が農作を始めたとき、ヒトの心と富と生活はどう変わったのか。何がどう変化したのか。

 経済システムとか効率とか”現代人”もしくは西欧の科学側から見た目で述べると

表紙[Amazon] [bk1]
「農業は人類の原罪である」コリン・タッジ著 進化論の現在 新潮社 850円 2002/10 (原書:1998/Neanderthals, Bandits and Farmers)

になるのかな。

「農業は人類の原罪である」
p.53
もし考古学者が古代の人間の営みについて示すはっきりとした痕跡を見つけたなら、その営みは既にそのときまでに広く、長きにわたって行なわれていたと考えることができる。新石器革命期に初めてはっきりとした農業の痕跡が見られるのなら、その時点までに農業の形はちゃんと確立されていたと考えて差し支えないのである。
p.58
農業人口が多くなればそれだけ人口も増加し、となればますます農業の必要性に迫られることになる。しかも、農業は狩猟とは全く違い、労力をかければそれだけの見返りがあるので、これらの過程はいよいよもって加速されていくのである。
 農業はあまり楽しくないものかもしれないが、ひとたび規模が拡大すると、もう後戻りはできなくなる。

 耕せば、暮らしは(狩猟採集の生活より)安定するし人口も増えるしやめられないとまらない、なくちゃもう生きていけません。同時に農業は”自然破壊”も伴うので”原罪だ”みたいなキリスト教圏的発想に。

●●●小玉7●●●

 猫に小判、馬耳東風。
 新しい行動様式、生活様式は、受け入れる素地がなければしかとされるだけ。
 風土に合わない、思考様式に合わない、構造に合わないものであれば、農業の情報がもたらされても受け入れられはしない、もしくは農作に失敗して死に絶えるだけ。

 農耕は、簡単に受け入れてもらえるものではなかった?
 富=善、ではなかった世界だった?

※ 富と呪詛: 「憑霊信仰論」 小松和彦 講談社学術文庫 1994

 経済的にグッドなら世の中何でも受け入れられるはずではないか・べきではないか、という”いまどきの人間”だけが持つひどくローカルかつ一時的な常識感覚で異文化・異時代を解釈しているとまずいことがある。

表紙[Amazon] [bk1]
「認知考古学とは何か」 松本直子編 青木書店 2003/12

「認知考古学とは何か」  松本直子
p.25
 新石器文化の発祥地から遠く離れたヨーロッパの北西部においても,新石器文化への移行は本質的に経済的現象であるというオーソドックスな見方はもはや成立しがたいことが指摘されている。
   〜中略〜
 ヨーロッパの大部分の地域においては,日本列島と同様に,農耕文化は伝播によってもたらされた。そして,ヨーロッパ西北部と日本列島においては,いずれも農耕民が先住の狩猟採集民を駆逐したのではなく,在地集団による導入や移住者との融合による新しい文化の生成が起こったと考えられる。こうした農耕文化の伝播についても,従来は経済的・環境的説明が主流であった。しかし,この伝播という局面についても,認知的要因が重要な役割を果たしたことが注意されるようになってきた。
p.27
 日本列島の場合も,ヨーロッパの場合も,農耕の伝播はしばしば新しい世界観や宗教を伴っている。農耕を採用するときに,経済的メリットについての合理的判断が重要であったのか,農耕を行うことによって維持される,あるいは変容される社会的関係が重要であったのか,それとも農耕と結びついた新しい信念の体系があまりに魅力的であったのか,複数のモデルが考えられるが,おそらく複数の要因が絡み合っている場合が多かったのではないかと考えられる。この問題を認知的視点から整理して考えるうえで,ダン・スペルベルが提示する「表象の疫学」が参考になりそうである。

 新しい行動様式、生活様式は、世界観の転換がなければ受容されない。
 転換には、旧世界観を新しい世界観に転換し翻意し接続する「儀式(意味共有の確認)」が必要になる。
 「儀式」を行える文化もしくは集団は、すでに集団間で「意味の共有と伝達」を行えるほどに結束と言語が発達していなければならない。葬送行為などの儀礼も発達していただろう。

表紙[Amazon] [bk1]
「表象は感染する 文化への自然主義的アプローチ」ダン・スペルベル著 新曜社 2001年
 Dan Sperber 1996 'Explaining Culture'

「認知考古学とは何か」  p.28 松本直子
スペルベルは,特定の文化がどのようにして成立するのか,どのような観念が伝播・定着しやすいのか,という本質的な問題に対して,認知科学の成果を取り入れることによって生産的な説明の枠組みを構築しようとしている。人間が備えている認知能力の特質を理解することによって,文化動態を説明しようという試みである。

 原初の世界観とその大きな構造枠は、ヒトの脳:認知機能と自然要素が創り出したもの。
 右手に狩猟、左手に採集、上に聖性、下に穢、カテゴリー枠の端境・リーメンに発生する力、マナ、もののけ…

※参照:
   「認知考古学のお通りだ」
    「神話構造 民話類型」

●●●小玉7●●●

 キリスト教的「原罪」感を持ち出さなくとも、もとより農耕は「自然母神/大地母神」に対する冒涜・侵襲であり、世界を脅かす、世界の安定を壊す、危ない行為であった。

表紙[Amazon] [bk1]
「もののけ 1」 山内昶(ひさし)著 ものと人間の文化史 法政大学出版局 2004/08

「もののけ 1」
p.162-163
農耕は母親殺し
 約一万年前後から世界史的に開始された農耕文化への移行が、人類にとってどんなに衝撃的な事件だったかを物語る好箇の証言がある。エリアーデによると(『豊饒と再生』)、北米ユマテラ族の予言者スモハラは、その方が豊かに暮せるからと農業を勧められても、《母なる大地》を傷つけたり切ったり引き裂くことは罪だと断固拒否して、次のようにいったとされる。「あなたは私に大地を耕してくれというのか?いったいこの私が小刀をとって、母の胸を傷つけるというのか? そんなことをすれば、私が死んだとき、母はその胸に私を抱いて、憩わせてはくれないだろう。あなたは私に石を掘りだせというのか? どうして私が骨に達するまで、母の皮膚の下を掘れようか? そうしたら、私が死んでから、母の体内に入って再び生れかわることができないではないか? あなたは私に、草を刈って、乾草をつくり、それを売って白人のように金持になれというのか! だがどうして私が母の髪の毛を切れようか?」。
 豊かな恵みを惜しみなくその胎内から生みだしてくれる《母なる大地》への愛着と崇敬が物質的な経済的インセンティヴを凌駕していたわけだが、農耕に移行してもこうした《大地母神》崇拝はいぜんとして痕跡を残していた。

 おおいなる神に対してやってはならないことをせよというのか!?
 地を汚せと!?

 農耕は、大きな世界観転換を伴わなければ、意味転換の儀式を行えなければ、受け入れがたい生活様式であった。

 大きな儀式。 それはイケニエを伴って…

「もののけ 1」
p.167-168
古く神官がハフリと呼ばれたのも、元来は「母なる自然の屠葬者/ハフリ/」の意味だったらしい。
   〜中略〜
世界のあちこちで農耕民は文化を建設するために殺してしまった原母への原罪意識から、生贄儀礼を通じて絶えず太母神殺のドラマを反復、再現することで、母なる自然の霊を慰撫、鎮魂すると 共に、集団無意識的にトラウマを消散させていた

 生贄(いけにえ)を殺す(ほうむる/はふる)役としての神官(ハフリ)。
 大地を侵して得る収穫。大地を慰撫し懇願し手なずけるための儀式。
 人間の心、ヒトの脳が、意味を共有するために必要とした儀式。
 大きな意味転換には、そのぶん「ショッキングな儀式」が必要とされる。

「農業は人類の原罪である」 :めちゃ物足りなかった。今の視点だけで古代を見ても何を言っているんだか状態で。
「表象は感染する」 :これ難しくて。「認知考古学とは何か」 の中で少し解題してあったけど、「認知考古学とは何か」 自体は農耕の受容と伝播をメインに云々している書籍ではなし…。
「もののけ 1」 「もののけ 2」:これも農耕の受容と伝播を主とした考察の本ではない、でも、現在推定されている「古代のひとびとの思考様式」がふんだんに(かなりはしょられてはいるが)紹介されていて、とても楽しく「古代の心」が概観できて初心者にもオススメ。

●農耕の受容と伝播についての今どきの考察
   これでお薦めの書籍どなたかご存じありませんか?

●原初の心についての博物的考察
   これでお薦めの書籍どなたかご存じありませんか?
 原初の心考察はどのていど容認というか、異分野に受容されているんでしょうか?
 むかしこの手のはよく読んだような気がするけど、最近の書籍ではどんなものがあります?

「もののけ 1」の山内昶氏の前著↓もかなり興が深くオススメです。

表紙
「タブーの謎を解く:食と性の文化学」  山内昶(ひさし)著 ちくま新書091 筑摩書房 1996

 なぜタブーがあるのか、文化によって食べていいもの悪いものが異なるのはなぜか、初心者にもわかりやすく解題。


へぇボタン:へぇ〜 と押してみるもよし

情報庫:  進化心理学 宗教・信仰 過去の文化+食人習慣 文化人類学




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