日本人の起源とその反省
ついこないだも、「日本人の祖先は***だからね」と断定口調でおっしゃる方に遭遇してしまった。
前世紀の終わり頃だったか、アジア各地の「日本人にそっくり」な民族や、日本の言語や童謡にそっくりな単語・歌曲を持つ民族を紹介するのがテレビで流行ってた、そのなごりがまだ残っているのだろうか、それとも延々「日本人は純粋な一民族」という幻想が日本の底流で脈々とし続けているんだろうか。

「日本人の起源 古人骨からルーツを探る」
中橋孝博著
講談社選書メチエ
講談社 2005/01 [bk1]
日本人はどこから来たのか、今わかっていることを教えてくれます。
平易で読みやすい。
読み手の興味を引く定番エピソードもきちんとおりこんで。
●相沢忠洋が発見した岩宿の石器群
・当時の定説は「日本に人が住みついたのは縄文時代以降」
・土器がない石器だけの文化はありえないぞと疑われる
・せっかくの発見もインチキ詐欺のど素人よばわりに
※ 日本旧石器研究の父 相沢忠洋物語 @相沢忠洋記念館
●直良信夫が見つけていた幻?の明石原人
・直良が明石の海岸で見つけた腰骨は、現代人のものだろう、
地層がちゃんとしていない、などマトモに取り合ってもらえなかった
・批判の原因にはお偉い学者間の派閥確執がうずまいていた
・実物は東京大空襲で焼失してしまった
・忘れ去られていた東大の石膏模型の存在
・20年も後に、石膏模型を元にして偉い先生が独特な原人の骨だと発表
・再発掘調査を行ったが、当時の発見場所(海岸)は侵食されてすでに海の中、
結局元の場所から80メートルも離れた場所を掘っただけで済ませてしまう
※ 「明石原人」の謎 @AKIMASA.NET
●そしてアノ旧石器捏造事件
「日本人の起源」 p.25-26
形態的に新しく見えるからといって、厳密な、しかも複数の手法による一致した年代測定値まで出されているものをただちに否定することはむずかしかった。過去においても考古学の世界は、先の岩宿の発見のように、その時の定説、常識を覆すような新事実の積み重ねがあって今日まで発展してきたのである。発掘品が広く公開されていればまだしも、マスコミ報道が先行するばかりで発掘結果の詳細な報告書も刊行されないままではどうしようもなかった。結局、本来あるべき研究者間の相互批判を欠いたまま、マスコミ報道にあおられて突っ走ってしまった、というのが実状であろう。
いくら反省してもしきれることはない遺憾きわまりないあの事件。
とはいえ、これにばかり紙数をさいては本書の目的からははずれるし、適度な量でとりあえず反省の弁。
※ 旧石器捏造事件
●神の手事件に便乗する形で、週刊誌上で捏造疑惑報道をされ、自殺をしてしまった故・賀川光夫氏の聖嶽洞穴事件にも少し言及あり。
「日本人の起源」 p.88で、故人の名前が賀川光雄になっているのはたぶん誤植。
※ 「聖嶽問題:地裁判決の後で」 @日本の考古学リソースのデジタル化
考古学は、古代の人間のありさまを明らかにするだけでなく、考古学自体にも、悲惨かつ忘れがたい歴史を刻んできている。
反省といえば。もひとつ。
異国の研究者から指摘をされるまで、日本の研究者は縄文人の歯のサイズがヘンなことに気がつかなかったらしい。
「日本人の起源」 p.98
歯の大きさは、人類の進化にともなって徐々に小さくなってきており 〜中略〜 その中で縄文人の歯は、不思議なことに現代人に較べてもなお小さく、それが次の弥生時代になるといきなり最大サイズの歯に変化してしまうのである。
p.173
恥ずかしい話だが、長年のあいだ縄文人の歯を見てきた日本人研究者のほとんどが、ブレイスらによって指摘されるまで、だれもこの単純な事実に気づかなかった。
聖嶽事件にしろ、神の手にしろこれにしろ、なにかのんきさと純朴さにどっぷりしながら、それでいて、かつては派閥や定説にがちがちだったという、…よくわからない。
その時代によって、その分野に集う人間の性向の偏りもそれぞれ異なっているのかもしれない。
対外政治や”日本民族”の自負心と直結していた、かつての時代の民族的に燃えていた考古学。
蒐集家の余暇道楽のごとき、政治的意味合いを失うと同時に批判力も失ったかのような今ののんきな考古学。
そんな絵を描いてしまいながら、これは部外者素人ならではの無責任な印象にすぎないのであって、図星ではない、ことを願ってみたり。
「日本人の起源」話は日本だけにとどまらない。
人類発祥の地アフリカ、ヨーロッパ、アジアにも渡る。
●ピルトダウン人事件の顛末も紹介されている
※ 捏造された猿人、ピルトダウン人事件 @関西医科大学法医学講座
●そして日中戦争で行方不明になってしまった北京原人の骨
北京原人とともに歩んだ人生 古人類学者 賈蘭坡氏をしのぶ
2001/11 人民中国インタ-ネット版
・
北京原人は中国人の祖先ではない DNA調査で中国雲南省の研究所が発表
2005/01 ヤフージャパン(共同通信)
・
北京原人:頭骨化石、米軍撃沈の阿波丸にあるか−−中国、再び引き揚げ挑戦
2004年研究話題 @大分大・総合科学研究支援センター 生命科学実験分野動物実験部門
●トゥーマイやオロリン、沖縄の港川人も登場。
※ 港川人遺跡・港川フィシャー@沖縄観光情報 Webサイト:真南風プラス
※ 1万8000年前の化石人骨が発掘された遺跡:THE MINATOGAWA MAN The University of Tokyo, Bulletin No.19
虫歯と食事の関係の話は面白い。
穀物やイモなど炭水化物〜糖分が多いと虫歯になりやすくなる。
「日本人の起源」 p.110 【大意】
食生活は虫歯の頻度と関係する。
北海道縄文人では約2%(観察した歯数中の虫歯比率)、本州縄文人では約15%になる。
オホーツク文化の人々では四〇〇本以上調べても虫歯ゼロ。
狩猟肉食だと虫歯はすごく少なくなるんだそうだ。
現代日本人の歯の4割がムシバであることを考えると、古代はかなり甘味が貴重な世界だったろう。
「日本人の起源」 p.116-117 【大意】
文字どおり、江戸っ子は三代続かない、というほどに、都市部は「江戸やまい」(=流行死病)でばたばた人が死ぬ世界だった。
農村は、小児死亡率の高さはともかく成人してからはさほど死亡率は高くない。
が、都市部は大人になっても死亡率は高いままで、しかもどんどん死ぬぶん、どんどん近郊農村から出稼ぎ、奉公、流れ者を吸収しさらに死者数を積み重ねていくアリ地獄状態。
でもって、人が住みづらい場所(湿地など)ならどこもかしこも死体が埋まっていおかしくないほど、お江戸には死体と墓が満ちあふれていた。人が住みづらかった場所(=墓地)は、のちに整地されて公共の場所や学校などに供されることが少なくなかった。しいては、怪談を引きずる湿地の学校、墓所の上に立っているとウワサされる病院などが、それなりの理由をもって成立してきてしまっている。
という話は、
[bk1] [Amazon]「江戸の町は骨だらけ」 鈴木理生 (まさお)著 2002/02 桜桃書房 |
がいろいろと。ええタイトルです。
ただ、これの著者(鈴木氏)は民間研究者なのかな、進化学や淘汰・性行動解釈がらみでややトンデモ素人なものいいが。そのへん目をつぶればこれもそれなりに面白く読めるでしょう。
で、「日本人の起源」。
この本にはそのほか現在「わかっていること」「わからないこと」「今後明らかにすべきこと」がひととおり読みやすく紹介してあり重宝。
日本列島に住む人類が、どこから流入し、どう置き換わり、どう移動して、どんな跡を残していったのか。
日本に住む人間は、日本人だけではない。
半島から来た人も、地球の裏から来た人もいらっしゃる。
私にしても、出島経由の異人さんの血が混じる複雑な出自。
古来からいる日本人でも、元をたどれば一種類の民族にあらず。
北方系、南方系、大陸系、それぞれの中にさらなる細分化を見出すことも可能。
われわれは、たまたまそれぞれ今ここにいる。多様な経路を引きずった多様な人間として。
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コメント
神の手氏の捏造ですが、女川原子力発電所の立地にまつわる、過去の災害の痕跡から、目を逸らさせるために、山奥の古い地層へ誘導したようにも考えられます。 仙台市の地下には、M9クラスの二層の巨大津波の堆積物がありますが、長らく「旧石器」に目を奪われたままです。
当地では、東大地震研究所の大先生により、過去の津波が無きものにされ、多くの犠牲者を出しました。捏造よりも恐ろしいです。生存中のためか検証されぬままです!
投稿: YUZOU | 2006.11.27 22:30