異神:中世日本の秘教的世界
ドキドキワクワクの古代〜中世信仰推理、大冒険。
異国から来た怪異をもたらす霊・神・秘術がどのようにまじわり変わり伝わったか。
![]() ![]() (旧版1998年 『異神:中世日本の秘教的世界』) 「異神 上」 山本ひろ子著; 筑摩書房 文庫 2003/06 |
ものすごい量の資料と知識を駆使しながら、抑えた論調で緻密な推理が展開していく。
これ、初学者にも楽しめるよう謎解き風にドラマタイズして改稿してみると、すごいエンタテイメントに仕上げられそうな興趣がふんだんに。小難しいことが好きな専門家だけに楽しませるのはもったいない、そんな失礼な考えも浮かぶほど、知の楽しさが詰まっている。
●疫病は異国からもたらされる、とされていた古代。
ヨソから来る災厄。
それを鎮めてくれるのもヨソから来た異神だったりする。
異国から渡来した、強靱な力を持つ神、「異神」。
大黒天や新羅明神、大陸由来のインドの神々が、日本の信仰世界と交わって、いろいろな形に変化していく、その筋道や気配を豊富な資料と研究を元に推察していく。
新羅明神の影響を受けて成立している 頼豪鼠 の説話。
恐るべき行疫神(病気の神)として異国からやってきた牛頭天王(ごずてんのう)。
その牛頭天王は、中世になると日本のスサノオとごっちゃになってパワーを増す。
新羅明神は牛頭天王と同様に行疫神としての驚異ももたらす。
しいては「スサノオ=新羅明神同体説」まで発生するに至る。
荒ぶる天狗を鎮めるには、摩多羅神の呪法が動員される。
異国由来の摩多羅(マタラ)神は、インド由来のマカカラ天、大黒天、またダキニ天でもあり、人間を喰らったり人間の死を左右したりする冥府な性格をたずさえて日本の信仰に浸透する。同体でありながら、それぞれの神は別の役割も担っているというややこしさ。
・ダキニ天が臨終者の内臓を喰らうと、その者は往生を遂げることができる
・死をもたらすダキニ天を大黒天が降伏して、人は正しく臨終できる
・とはいえ、元をたどれば大黒天も、戦や災いをもたらしたり
墓場に棲んで人の血肉を喰らっていたりしたという恐ろしい事実
『異神』 p.127
「最極頓成の秘供物」とされた血水を献ずることで法の成就が速やかにかなうと信じられたのだろうが、それはもちろん、大黒天が人の血肉を喰らう奪精鬼であるからにほかなるまい。
摩怛利神〔七母天)法、七鬼の呪法、赤山明神などとも複雑に重なり合い響きあって、病気や災厄と結びついた摩多羅神・スサノオ(牛頭天王)は、時代とともにどんどん変遷していく。
●邪教 立川流 にも「摩多羅神の歌舞」があるのだそうで、その歌詞解釈(「生死煩悩ノ至極」をあらわしたもの:要するにエロエロ系表現)も登場する。
●人間の胞衣(えな)は強い力を持つ霊的アイテムだった。
赤子は祖霊があの世から戻ってきたものだという観念があり、その赤子を包んでこの世まで届けてくれる、霊的パワーの強い袋、もしくは邪霊と戦う鎧、そうみなされていた。
受胎時から命終まで、われわれ衆生を守護してくれる「胞衣寿福神」という神様もいらっしゃった。
p.352
胎内では「宇浮/うぶ/神」(胞衣神)、出胎後は「立増神」「守宅神」、そして死後は「霊鬼」となってその人を守護する荒神。それはまさに「影ノ形ニ随フ如ク」衆生の一人一人と運命を共にし、親にも勝る覆育の力を示しているのだ。こうした愛護の尊としての胞衣荒神像は、修験道の教理の中にも見出すことができる。
なんかすごい神様だ。ちょっとこのくだりは勝手に感動してしまった。

正直言うと、この本は簡単には読めない。
なんせボリュームがすごい。
700ページ近い大部、渾身の力作で。
読むほうも渾身の力を込めて読まなければ簡単にはねかえされてしまいそうな一品。
でも、これハマればめくるめく調査と推理の楽しさに出会える。
異国から伝来した種々の神が日本で占めた位置の変遷、そこからかいま見える日本の昔の世界観、しいては今に残る古代思考の残滓、汲めども尽きない面白さが満載。
最近、上下巻に分けて 文庫版も出たようなので、気になる人はチェックしてみると吉かもしれない。
世にも恐ろしい葦の物語 疫病をもたらす恐ろしい数のたたり神軍団の話
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と押してみるもよし●情報庫: 民俗学

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