鳥の収斂進化、昆虫のトレードオフ
擬態(ぎたい)をしているわけでなくても、姿形がそっくりに進化してしまう例、収斂(しゅうれん)進化。
親は飛べるのに子供は飛べない、そんな例が普通な、昆虫のトレードオフ。
「鳥の起源と進化」 アラン・フェドゥーシア著; 平凡社 2004/07 [bk1] (原書:1996-1999/THE ORIGIN AND EVOLUTION OF BIRDS: Alan Feduccia) 「飛ぶ昆虫、飛ばない昆虫の謎」 藤崎憲治・田中誠二編著 東海大学出版会 2004/03 [bk1] |
まずは
「飛ぶ昆虫、飛ばない昆虫の謎」。
こちらは中国とは無関係。
こちらのキーワードは「トレードオフ」。
「飛ぶ昆虫、飛ばない昆虫の謎」まえがき viii〜ix
昆虫たちは,ほかの生物たちが皆そうであるように,限られたエネルギーと時間しか持ち合わせていない,不完全な存在である.人間社会に実はスーパーマンなどいないように,すべての形質に優れた万能の昆虫,すなわちスーパー昆虫など,どこを探しても見当たらない.たとえば,大きな卵を産もうとすれば産卵数が少なくなるし,産卵数を増やすのなら卵は小さくせざるを得ない.いま生息場所を変えるために移動しようとすれば,繁殖はとりあえず後回しになってしまう.形質問にみられるこのような一種の矛盾関係はトレ一ド・オフとよばれる,生物における本質的な関係性である.p.90
これほどまでに飛ばない種が存在し,しかもそのような進化が様々な昆虫目において独立に起こったということは,飛翔は画期的な適応であるにもかかわらず,そのためには何らかの大きな代償を支払わなければならないことを意味している.そのような代償,すなわちコストとはいったいどのようなものであろうか.
あちらを立てればこちらが立たず。
すべてを望むものはすべてが半端に終わる。
一芸に秀/ひい/でるにはほかの可能性を諦/あきら/めねばならない。
適材適所、TPOに合わせてはまるものが伸びていく。
そんな人生訓めいたごたくはさておいても、同じ種の中で飛ぶ飛ばない、鳴く鳴かない、行動の違いや形態の差があるのはなぜなのか、特に飛ぶ個体と飛ばない個体両方が存在する種の「飛翔多型」を中心に重ねてきた研究会の成果がまとめられている。
イナゴ、バッタ、コオロギ、ウンカ、カメムシ、アメンボ、アリ、コガネムシ…
●増えすぎて過密になると、自動的に長距離飛行型の個体が増えて(!)群移動をはじめてしまうイナゴやバッタ。
●鳴いて殖えられるなら鳴くし、鳴いて天敵に食われやすくなるなら鳴かずに繁殖をする(!)のが世の理/ことわり/なコオロギ。
●はばたいて飛ぶよりは、潜水耐久能力を伸ばしたほうが生き延びられる海のどまんなか、そこで羽(翅)の代わりに毛をふさふささせている(!)ウミアメンボ。
●羽(翅)が生える前にその部分をかじりとられた(!)個体は、繁殖も飛翔もできない働きアリになってしまう、トゲオオハリアリ。
●飛翔にはある程度高い気温が必要。
寒いと羽を動かす筋肉がすばやく動かず飛べなくなるので、寒い環境では羽があるぶん不利&羽なし個体のほうが有利だったりする。
羽なしの個体は飛翔用の筋肉が要らないぶん脂肪をたっぷりため込んでいる、その証拠の断面写真(!)も生々しく。

飛ぶこと飛べることが、生きることにとって有利だとは限らない、その実例がさまざまに。
あちらを採るか、こちらを採るか、トレードオフが思考ゲームとして面白い。
研究仲間向けな記述が多めで、一般人が軽く読んで楽しむにはちょっとお堅いかもしれないが、そんな厚い本でもないし、今般台頭著しい「昆虫=宇宙生物」説賛否を語りたいお方とか、ムシキング好きな向きとか、こういう本も目を通しておくとそれなりに吉。

…アメンボってカメムシだったんですね。

「鳥の起源と進化」
こちらのキーワードは収斂(しゅうれん)進化。
縁もゆかりもない異種類の生物であっても、特定の生態条件では、機能的制約から姿形が似てきてしまうよと。
擬態とはまたちょっと違う。
たとえば狼とフクロオオカミ、たとえばハチドリとスズメガ、たとえばフラミンゴのくちばしとヒゲクジラの口…
※ タラバガニはカニっぽいかっこに収斂進化しているが、実体はカニよりヤドカリなのでございまして:
『収斂進化1:カニの王者タラバガニはカニのそら似』 生命誌研究館・宮田隆 2005年2月1日

鳥には収斂進化の優れた例がいろいろ存在するらしい。
飛び方、食い方、歩く場所、ナワバリの植生…
棲息環境や採餌/さいじ/方法などで、ソレに適した姿形はおのずと限られてくる。
「あれとあれは近縁種だろう、これとこれはどうみても遠縁だ」みたいに、一所懸命学者さんたちが見た目の似かよい具合を頼りに生き物の分類をやっていたのが、いざ遺伝子を調べてみると「思ってた系統とはむっちゃちゃうやん!びっくりやん!」というケースがたびたび。
おのれの目は簡単に信じちゃいかん、という教訓に良かったりする。
うり二つでも全く別の生き物
見た目と実体は大違い 鳥の各種の近縁度、容姿形態とはほど遠いこと多し
2004/12 New Scientist Birds of a feather not related to each other
フラミンゴを遺伝子分析してみたら意外な系統でした
最も近い親戚は空中からダイビングして餌をとる足の短い鳥
2001/07 Penn State Eberly College of Science Study of Flamingo Genes Reveals Surprising Family Tree
「鳥の起源と進化」 p.5
収斂進化は脊椎動物の歴史上中心的なテーマであり、鳥類一般に見られる特徴である。鳥類では様々な分類群が結果的によく似て見えることが多い。ざっと見ただけでも、北半球のウミスズメ類と南半球のモグリウミツバメ類、オオウミガラス類とペンギン類、旧世界のサイチョウ類と新世界のオオハシ類、アマツバメ類とツバメ類、マダガスカルのニセタイヨウチョウ類と真正のタイヨウチョウ類、旧世界のヒタキ類(鳴禽/めいきん/類)と新世界のハエトリ類(亜鳴禽類)などの例が挙げられる。
その形状になる必然性。
収斂進化から、「その形状はこういう暮らしをしていた証拠だろう」という推理も広がる。
この歯なら肉を食っていただろう、この爪は地上を歩く生物には見られない、飛翔に使わない羽は飛翔に使う羽根とは違う形状になる、と。
で、「鳥の起源と進化」はヒトゲノム解読前の時代の本なので、最新の知見までは収録できていないけれど、鳥の進化研究については大量の情報を詰め込んである読みごたえじゅうぶんの労作。

「飛ぶ昆虫、飛ばない昆虫の謎」には「小さな島では飛ばない種類の昆虫が多い」という指摘が記されていた。
下手に飛ぶと島の外に流されてしまうし、渡りをするほどの必要性も見返りもない虫としては、飛ばないほうが結果的に有利だったのではと。
「飛ばない鳥」についてもつい考えてしまうが、虫とは身体サイズのスケールも骨格も寿命も大幅に違うし、同種内で飛ぶ飛ばないの「飛翔多型」があるわけでなし、かなり様相は異なるだろうな、とか。
この2冊、読み合わせると、考えるタネ、生き物を観察する興味のもとが、たくさんゲットできてラッキー。
![]() 「鳥の起源と進化」 | 「飛ぶ昆虫、飛ばない昆虫の謎」 |
「鳥の起源と進化」については続きがあります 『鳥と恐竜、化石の中国マジック?』
へぇボタン:へぇ〜
と押してみるもよし

| 固定リンク
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/863/4266266
この記事へのトラックバック一覧です: 鳥の収斂進化、昆虫のトレードオフ:








コメント