人間の本性を考える:子育ての大誤解
先日「人の性格が簡単には変わらなくなるのは高校くらいからかな」とおっしゃる方に遭遇した。
説明に窮する。
その前提には、人間には「性格が簡単に変わる年齢」があり、それは「性格が簡単に変わらなくなる年齢」とわけることができるのだ、という思い込みがあるわけで。
性格が簡単に変わる?
人間は幼いときの環境しだいで性格が変わる?
…かくのごとき「空白の石版(人間の性質は最初真っ白まっさらで、育つ過程の条件しだいでどうにでも染まる)」信仰の実例があるところを見ると、まぁ、翻訳してもムダではないこともあるんだろうな、とかは思うけれど。
「人間の本性を考える 心は「空白の石版」か 上」 2004/08 「人間の本性を考える 心は「空白の石版」か 中」 2004/08 「人間の本性を考える 心は「空白の石版」か 下」 2004/09スティーブン・ピンカー著 NHKブックス 日本放送出版協会 原書:2002 / The Blank Slate |
進化心理学を、西洋的ヤジから擁護します本。
トピックは豊富でいろいろな論点をあげつらってくれてはいるが、ごちゃごちゃとっちらかっている。いや、とっちらかってはいないんだろうけど、なんぼか読みづらい。
さまざまな事実やデータを紹介してくれる、というよりは、さまざまな主題にどんなカンチガイがあるか・どう解釈するべきか・誰の意見がどう間違っているのかと、「ものの見方の衝突」とピンカーが言うところの「正しい物の見方」がえんえん並べ立てられ、それに伴う大仰なブラフ(感情操作こみ)が撹乱の種になっているうえ、学生相手商売の延長だからかジョークやらマンガやらまではさみこまれるわで”入門に読もうかな”と手にとったお方にはつらかろうできばえ。
この本、誰を相手にしているのか。
何のために日本語に訳したのか。
日本では「書き手がどういう背景のもとに誰を相手に想定して記しているのか」という想像を加えながらもしくは差し引きながら読まねばならないので面倒、というか、コミックカルチャーまでひっくるめてアメリカのお国事情まるだしの書きよう、あるていど米国内の社会生物学論争の経緯を把握している読者向け、日本の読み手にはいまいちそぐわないローカルなスタンスの書き物。
踏んでおくべき重要な著作ではあるんだろうけれど。
ジョナサン・マークス著 「98%チンパンジー 分子人類学から見た現代遺伝学」 p.163
社会問題に対する科学的な答えには政治的な行動が絡んでくる。
物事の意味合いを、ああでもないこうでもないと操作するのが政治。だとすれば。
ピンカーは科学をしながら政治にかまけている。
政治にかまけなければ、科学ができない、そういう社会環境と位置にいる科学側の人間。
ピンカーは子供はもうけていない。
作りたくなったら作るかもしれないけどな、そういうスタンスの。
進化や繁殖行為に自らが拘泥することに、立場上抵抗感があるのだろうか。
自閉症の我が子を抱えて「遺伝子を改変して人類を改良し病苦をなくせ」と叫ぶ遺伝子の大先生:二重らせんワトソン。
それとだぶらせるのは不適切だろうか?

『子育ての大誤解 ジュディス・リッチ・ハリス著 石田理恵訳 早川書房 2000年 原書1998:THE NURTURE ASSUMPTION |
こちらは育児において”親は自意識過剰すぎ””子は親のせいにしすぎ”とガツンとぶちあげた本。
●生まれ順で決まる「兄弟性格」なんかございません、気のせいです。
●家庭環境のせいで成長後の性格が決まるのではございません。
そう思えるのは成長後に各人が恣意的にそう理由づけているだけの話。
アダルトチャイルドも虐待影響も、すべては気のせい、本人の思い込みでございます。
●影響するのは性格を左右する遺伝要素と本人の友達つきあいばかりなり。
親がいくら精根尽くしても、子供のデキに貢献できる部分はスズメの涙ほどもございません。
そも、この本を書くよう著者に勧めたのはピンカーだったらしい。
だからか
「人間の本性を考える」でこの本を擁護しまくっていたりする。
それはそれとして、この本の著者、いらぬところでキャラが立っているんだが。
大学を追放され、病床に伏し、失業し孤立している人妻が、世の通念と学会の通念に真っ向勝負を挑んでパンチ喰らわせております。みたいな。
いかんせん原書は前世紀の著作だし、当該書の内容もそれなりに世に普及した部分もあるので今ではさほどでもないけれど、出版当時のインパクトはかなりキテいたんだろうなぁ。
今では「生まれつきの性質」と「育ちや教育の影響」は半々じゃないかという話がふつう&成長後〜高齢期は教育のしばりがないぶん遺伝の影響が強く出るぞ、みたいな。
信仰心は生まれつき?
幼いときは遺伝も環境も影響は半々@双子調査
ただし、思春期〜青年期は遺伝要因のほうが優る
2005/03 EurekAlert Nature helps create religious adults
行動遺伝に見るメタファーの考察 強調される後天環境影響
2003 Theoretical Medicine and Bioethics , vol. 24, no. 1, pp. 59-77(19) Metaphors in behavioral genetics
とはいえ、”親”になる個体に備わる執着欲にそぐうようにして深く確固として普及し受け入れられている価値観と欲望の塊、その欲望願望を侮(あなど)ってあからさまに「そんな努力はムダ」とつきつけても、とうていそこらの親御(おやご)さんがたには受け入れられはしまい。
下手をすると逆に「アダルトチャイルドも虐待影響も、すべては気のせい、子供の思い込みでございます」とテキトーな責任回避に使われておしまい&異論噴出なことになりかねないだろうし。
”家庭”という所属関係がある限り、親は子に関わりづけられ、互いの願望投影は繰り返され続ける。
個人の心のおさまりどころを云々するには、今程度の進化心理学や行動遺伝学では粗雑すぎる、役不足だ。
受け入れられないことを嘆いているヒマがあるなら、もっと論法や手法の洗練に尽力すべし。
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